「即戦力となる経験者を採用して事業を加速させたいが、採用コストが負担になっている…」「ベテラン人材を確保したいが、良い人材が集まらない…」そんなお悩みをお持ちの経営者・人事担当者様は多いのではないでしょうか。
その課題、厚生労働省の「早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)」が解決の糸口になるかもしれません。この助成金は、中途採用を積極的に行い、中途採用率を大きく向上させた事業主に対して、最大100万円(返済不要)を支給する制度です。
例えば、これまで新卒採用が中心だった企業が、新たに中途採用の雇用管理制度を整え、計画的に採用を拡大することで、組織の活性化と事業成長を実現しながら、助成金を受け取ることが可能です。
この記事では、助成金の専門家が、早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)について、「自社は対象になるのか?」「いくら貰えるのか?」「どうやって申請すればいいのか?」といった疑問に、どこよりも詳しく、分かりやすくお答えします。この記事一本で、制度の全体像から採択されるための秘訣まで、全てを理解できるよう構成しています。
助成金ハイライト
- 最大100万円の助成金(返済不要)で採用コストを支援
- 中途採用率を20ポイント以上向上させることが目標
- 45歳以上の採用&前職より5%以上の賃金アップで助成額が50万円から100万円に倍増
- ハローワーク経由だけでなく、民間求人サイトや人材紹介経由の採用も対象
- 申請には事前の「中途採用計画」の提出が必須
早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)の概要
早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)とは、厚生労働省が管轄する雇用関係助成金の一つです。この制度の目的は、中途採用者の雇用管理制度(募集・採用を除く)を整備し、計画的に中途採用の拡大を図る事業主を支援することで、経験豊富な人材の円滑な労働移動を促進し、日本経済全体の生産性向上に寄与することにあります。
単に人を雇い入れるだけでなく、「中途採用計画」を事前に策定・提出し、その計画に基づいて中途採用率を大幅に向上させるという目標達成型の助成金であることが大きな特徴です。令和7年4月1日にも一部様式等が変更されており、常に最新の公募要領を確認することが重要です。
基本情報テーブル
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成金名 | 早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース) |
| 実施組織 | 厚生労働省(申請窓口:各都道府県労働局) |
| 助成額 | (A) 中途採用率の拡大: 50万円 (B) 45歳以上の中途採用率の拡大: 100万円 |
| 申請期間 | 計画届: 計画期間開始日の6ヶ月前から前日まで 支給申請: 計画期間終了日の翌日から2ヶ月以内 |
| 対象者 | 中途採用の拡大を目指す雇用保険適用事業主 |
| 公式サイト | 厚生労働省 公式ページ |
【徹底解説】対象者・対象経費・メリット・注意点
どんな人が対象? (対象事業主の具体例・対象外の例)
この助成金は、幅広い業種・規模の事業主が対象となり得ますが、いくつかの重要な要件があります。
対象となる事業主の主な要件
- 雇用保険の適用事業主であること。
- 中途採用者の雇用管理制度(労働時間、休日、評価・処遇制度など)を整備すること。
- 1年間の中途採用計画を作成し、管轄の労働局に届け出ること。
- 計画期間中に、対象となる労働者を2人以上雇い入れること。
- 計画期間中の中途採用率を、計画期間前の3年間と比較して20ポイント以上向上させること。
- 常時雇用する労働者が301人以上の企業は、中途採用比率を公表していること。
具体例:
【ITベンチャー企業】
事業拡大に伴い、経験豊富なエンジニアやマーケターを積極的に採用したい。これまで新卒中心だったが、中途採用の評価制度や福利厚生を整備し、1年間で中途採用率を10%から40%に引き上げる計画を立てて申請。
【地方の製造業】
技術継承のため、45歳以上のベテラン技術者を採用したい。45歳以上の採用枠を設け、前職の給与を上回る待遇を保証する制度を導入。中途採用率全体を20ポイント、うち45歳以上を10ポイント以上向上させる計画で100万円のコースを目指す。
よくある対象外(不支給)となる事例
- 計画届の提出忘れ・期限切れ: 最も多い不支給理由です。必ず計画期間が始まる「前日」までに労働局に提出(必着)する必要があります。
- 労働保険料の滞納: 申請時点や審査時点で労働保険料を滞納していると、いかなる理由があっても不支給となります。
- 労働関係法令の違反: 申請前の一定期間に解雇予告手当を支払っていなかったり、残業代の未払いがあったりするなど、労働基準法等に違反している場合は対象外です。
- 対象労働者の要件不備: 採用した人材が「期間の定めのない労働者」でなかったり、過去1年以内に自社や関連会社で働いた経験があったりすると対象労働者としてカウントされません。
何に使える? (補助対象経費について)
この助成金についてよくある誤解が「何かの経費を補助してくれる」というものですが、それは正しくありません。
本助成金は、特定の経費(設備費や広告費など)を補助するものではなく、「中途採用率を20ポイント以上向上させる」などの要件を達成したことに対して定額が支給される『成功報酬型』の助成金です。
したがって、支給された助成金の使途は限定されておらず、企業の運転資金として自由に活用できます。例えば、以下のような費用に充当することが考えられます。
- 追加の人材を採用するための人件費
- 求人広告媒体への出稿費用
- 人材紹介会社への成功報酬
- 採用した社員への研修費用
- 新たな設備投資の資金
- 従業員の福利厚生の充実
- オフィスの賃料
- マーケティング費用
- 新規事業開発費
- 借入金の返済
このように、経費の領収書を提出する必要がなく、自由度の高い資金として活用できる点が大きなメリットです。
メリットと注意点 (詳細解説)
この助成金を活用する上でのメリットと、申請前に必ず知っておくべき注意点を詳しく解説します。
メリット
- 返済不要の資金調達: 融資とは異なり返済義務がないため、企業の財務体質を圧迫することなく資金を得られます。
- 計画的な組織強化: 計画策定を通じて、自社の採用戦略や人材育成方針を再確認し、計画的に組織を強化するきっかけになります。
- 雇用管理制度の近代化: 助成金の要件を満たすために、評価制度や福利厚生を見直すことで、従業員満足度の向上や離職率の低下につながります。
- 採用競争力の向上: 整備された雇用制度や積極的な採用姿勢は、求職者にとって魅力的に映り、優秀な人材の獲得につながりやすくなります。
- 企業の社会的信用の向上: 国の助成金を活用している企業として、雇用創出に積極的で、法令を遵守するクリーンな企業であるというイメージアップにつながります。
注意点
⚠️ 注意: 以下の点を必ず理解した上で申請を検討してください。
- 助成金は完全後払い: 計画期間(1年間)が終了し、支給申請・審査を経てからの入金となります。計画期間中の採用コストや人件費は、すべて自社で立て替える必要があります。
- 「中途採用率」の計算が複雑: 計画期間前「3年間」の採用実績を正確に把握し、中途採用率を算出しなければなりません。過去のデータ管理が不十分だと、この時点でつまずく可能性があります。
- 計画達成のハードル: 「中途採用率20ポイント向上」と「対象労働者2名以上の採用」は、決して低いハードルではありません。採用市場の動向も踏まえ、実現可能な計画を立てる必要があります。
- 書類作成の手間: 計画書や申請書に加え、賃金台帳や出勤簿など、添付書類も多岐にわたります。正確な書類を期日内に準備するには、相応の時間と労力がかかります。
- 不支給リスク: 上記の「対象外の例」で挙げたように、些細なミスや法令違反で不支給となるリスクが常に伴います。
申請の詳細ステップバイステップガイド
この助成金を受給するための流れは、大きく6つのステップに分かれます。各ステップでのポイントを詳しく見ていきましょう。
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Step 1: 雇用管理制度の整備と中途採用計画の作成
- 何をすべきか: 中途採用者向けの評価・処遇制度や福利厚生など、募集・採用活動を除く雇用管理に関する制度を整備・明文化します。その上で、今後1年間の「中途採用計画書」を作成します。計画書には、目標とする中途採用率(20ポイント以上向上)とその達成に向けた具体的な取り組みを記載します。
- どれくらい時間がかかるか(目安): 1週間~1ヶ月。既存制度の見直しや新規策定に時間がかかる場合があります。
- 初心者がつまずくポイント: 制度の明文化が曖昧になること。実現可能性の低い、根拠のない目標値を設定してしまうこと。
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Step 2: 中途採用計画の届出
- 何をすべきか: 作成した「中途採用計画書」を、計画期間が始まる前日までに、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局へ提出します。郵送の場合は必着です。
- どれくらい時間がかかるか(目安): 1日。
- 初心者がつまずくポイント: 提出期限を1日でも過ぎると、その計画は無効になります。余裕を持ったスケジュール管理が不可欠です。
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Step 3: 計画期間中の取組実施
- 何をすべきか: 提出した計画に沿って、1年間、中途採用活動を実施します。期間内に要件を満たす対象労働者を2名以上雇い入れ、中途採用率の目標達成を目指します。
- どれくらい時間がかかるか(目安): 1年間。
- 初心者がつまずくポイント: 採用が計画通りに進まず、目標人数や率を達成できない。採用した労働者が対象要件を満たしていなかった(例:パートタイム採用だった)。
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Step 4: 支給申請
- 何をすべきか: 計画期間が終了したら、その翌日から2ヶ月以内に、支給申請書と必要書類(賃金台帳、出勤簿、雇用契約書の写し等)を揃えて、労働局へ提出します。
- どれくらい時間がかかるか(目安): 書類準備に1~2週間。
- 初心者がつまずくポイント: 添付書類の不備や記載漏れ。特に賃金台帳と出勤簿の整合性は厳しくチェックされます。申請期限を過ぎてしまうケースも散見されます。
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Step 5: 審査・支給決定
- 何をすべきか: 労働局による審査が行われます。提出書類の内容が精査され、要件を満たしているかが確認されます。必要に応じて、追加資料の提出やヒアリングを求められることもあります。
- どれくらい時間がかかるか(目安): 2ヶ月~4ヶ月程度。申請が集中する時期はさらに長引くこともあります。
- 初心者がつまずくポイント: 審査官からの問い合わせに迅速かつ的確に回答できないと、審査が滞る原因になります。
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Step 6: 助成金の受給
- 何をすべきか: 審査を通過すると「支給決定通知書」が届き、その後、指定した金融機関の口座に助成金が振り込まれます。
- どれくらい時間がかかるか(目安): 支給決定から約1ヶ月。
- 初心者がつまずくポイント: 特になし。
採択率を上げる!中途採用計画書作成3つの秘訣
この助成金の肝となるのが「中途採用計画書」です。審査官は、この計画書を見て、助成金の趣旨に合致した、実現可能性の高い取り組みであるかを判断します。単に形式を整えるだけでなく、以下の3つの秘訣を意識して作成することで、審査の通過率を大きく高めることができます。
秘訣1:雇用管理制度の整備内容を「具体的に」記述する
審査官が知りたいのは、中途採用者が入社後に定着し、活躍できる環境が本当に整えられるのか、という点です。「評価制度を整備します」といった抽象的な表現では不十分です。
【良い例】
「評価・処遇制度において、これまでの年功序列的な評価項目を見直し、新たにスキルや実績を重視した評価シートを導入する。具体的には、中途採用者の前職での経験年数や専門性をポイント化し、基本給に反映させる賃金テーブルを〇月〇日までに策定し、全社員に周知する。」
このように、「何を」「いつまでに」「どのように」整備するのかを具体的に示すことで、計画の本気度と実現性が伝わります。
秘訣2:中途採用率向上の「根拠」を明確にする
「中途採用率を20ポイント向上させる」という目標は、事業計画と連動している必要があります。なぜそれだけの採用が必要で、なぜそれが可能なのか、説得力のあるストーリーを描きましょう。
【良い例】
「現在、新規事業として〇〇分野への進出を計画しており、それに伴い〇〇のスキルを持つ即戦力人材が最低5名必要である。過去3年間の中途採用率は平均15%だったが、今期は新たに大手求人媒体〇〇と契約し、スカウトメールサービスも活用することで、応募者数を前年比300%に引き上げる。これにより、採用者数全体を増やしつつ、中途採用率を40%まで向上させる計画である。」
具体的な事業計画、新たな採用チャネルの活用、数値目標などを盛り込むことで、目標達成の蓋然性をアピールできます。
秘訣3:助成金の「目的」との整合性をアピールする
この助成金は、労働移動の円滑化や企業の生産性向上を目的としています。自社の取り組みが、その目的にどう貢献するのかを示す視点が重要です。
【良い例】
「当社はこれまで新卒採用が中心であったため、組織の同質化が課題となっていた。多様な業界での経験を持つ中途採用者を積極的に受け入れることで、新たな視点やノウハウを社内に取り込み、イノベーションを創出する。特に、経験豊富な45歳以上のベテラン人材を採用し、若手社員への技術指導を任せることで、組織全体のスキル底上げと生産性向上を図る。」
このように、自社の課題解決だけでなく、採用した人材がもたらす波及効果や社会的な意義にまで言及することで、計画の質が一段と高まります。申請には事業計画書の作成が必要です(参考:採択される事業計画書の書き方解説)。
公募開始から入金までの全スケジュール
申請を検討する際は、全体のタイムラインを把握しておくことが重要です。助成金が実際に入金されるまでには、1年半以上かかる場合があることを念頭に置きましょう。
-
1
計画開始の6ヶ月前~前日
中途採用計画の作成と労働局への提出。この期間を逃すと申請できません。 -
2
計画開始日~1年後(計画期間)
計画に基づき、中途採用活動を実施。この期間の活動が評価対象となります。 -
3
計画期間終了後~2ヶ月以内
支給申請書の提出期限。非常にタイトなため、計画期間終了前から準備を進めましょう。 -
4
申請後 2~4ヶ月程度
労働局による審査期間。書類の不備などがあると、さらに時間がかかります。 -
5
支給決定後 約1ヶ月
支給決定通知書が届き、指定口座へ助成金が入金されます。
よくある質問(FAQ)
Q1: ハローワーク経由の採用でなければ対象になりませんか?
A1: いいえ、対象になります。ハローワークからの紹介に限定されず、民間の求人サイト、人材紹介会社、自社ホームページでの募集、リファラル採用など、あらゆる採用チャネルが対象となります。
Q2: 「中途採用率」はどのように計算するのですか?
A2: 少し複雑ですが、「計画期間中の中途採用率」から「計画期間前3年間の中途採用率」を引いて計算します。それぞれの中途採用率は「期間中の中途採用者数 ÷ 期間中の全採用者数 × 100」で算出します。詳細は厚生労働省のガイドブックに計算例が記載されていますので、必ずご確認ください。
Q3: 計画期間中に採用した人がすぐに辞めてしまった場合はどうなりますか?
A3: 採用した対象労働者が自己都合で退職した場合でも、雇い入れの事実があれば対象労働者としてカウントされます。ただし、支給申請日までに会社都合で解雇した場合は、助成金全体が不支給となる可能性がありますのでご注意ください。
Q4: 他の雇用関係助成金と併用できますか?
A4: 同一の労働者を対象として、他の助成金と併給調整が行われる、あるいは併給が認められない場合があります。例えば、特定求職者雇用開発助成金やキャリアアップ助成金などとの併用を検討する場合は、事前に管轄の労働局へ確認することを強く推奨します。
Q5: 45歳以上の賃金5%アップは、基本給だけで判断しますか?
A5: いいえ、基本給だけでなく、役職手当や資格手当など、毎月決まって支払われる賃金(固定的賃金)で比較します。残業手当や賞与など、月によって変動する賃金は比較の対象外です。
Q6: 社会保険労務士に申請代行を依頼すべきですか?
A6: 必須ではありませんが、手続きが複雑で、書類の正確性が求められるため、専門家である社会保険労務士に依頼するメリットは大きいです。特に、初めて申請する事業主様や、人事部門のリソースが限られている場合は、専門家に任せることで不支給リスクを減らし、スムーズな申請が期待できます。
Q7: 契約社員として採用した後、正社員に登用した場合は対象になりますか?
A7: いいえ、対象外です。この助成金の対象となるのは、雇い入れ当初から「期間の定めのない労働者(正社員など)」として雇用した場合に限られます。有期契約からの転換は、キャリアアップ助成金(正社員化コース)など、別の助成金の対象となる可能性があります。
Q8: 計画を提出しましたが、目標を達成できそうにありません。どうすればよいですか?
A8: 残念ながら、目標が未達の場合は助成金は支給されません。計画の変更は原則として認められないため、計画策定の段階で、自社の採用力や市場環境を冷静に分析し、現実的な目標を設定することが極めて重要です。
まとめ:今すぐ公式サイトで詳細を確認しよう
今回は、「早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)」について、概要から申請のステップ、採択されるための秘訣まで詳しく解説しました。
この助成金は、単なる資金援助ではなく、計画的な中途採用を通じて企業の成長を促すための制度です。手続きは複雑ですが、計画的に取り組むことで、最大100万円の返済不要な資金を得ながら、組織を強化する絶好の機会となります。
特に、経験豊富な人材を求めている企業、45歳以上のベテラン層の活用を考えている企業にとっては、非常に魅力的な制度と言えるでしょう。まずは自社が対象となるかを確認し、第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
他にも「中小企業向け助成金・補助金一覧」もご確認ください。
対象者・対象事業
中途採用者の雇用管理制度を整備した上で、中途採用率を計画的に拡大しようとする雇用保険適用事業主。
必要書類(詳細)
中途採用計画書、支給申請書、支給要件確認申立書、支払方法・受取人住所届、中途採用実績報告書、対象労働者の雇用契約書または労働条件通知書、賃金台帳、出勤簿など。詳細は管轄労働局にご確認ください。
対象経費(詳細)
本助成金は経費を補助するものではなく、要件達成に対して定額が支給されるものです。
対象者・対象事業
中途採用者の雇用管理制度を整備した上で、中途採用率を計画的に拡大しようとする雇用保険適用事業主。
必要書類(詳細)
中途採用計画書、支給申請書、支給要件確認申立書、支払方法・受取人住所届、中途採用実績報告書、対象労働者の雇用契約書または労働条件通知書、賃金台帳、出勤簿など。詳細は管轄労働局にご確認ください。
対象経費(詳細)
本助成金は経費を補助するものではなく、要件達成に対して定額が支給されるものです。