この記事のポイント
- 従業員のスキルアップを目的とした「在籍型出向」にかかる費用を支援
- 出向復帰後の賃金を5%以上アップさせることが要件
- 中小企業は助成率2/3、1事業所あたり最大1,000万円を受給可能
- 申請の流れや必要書類、よくある質問まで詳しく解説
「従業員に新しいスキルを身につけさせたいが、教育コストが課題だ」「人材育成と同時に、従業員の待遇改善も実現したい」とお考えの事業主様は多いのではないでしょうか。そのような課題を解決するのが、厚生労働省の「産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)」です。
この制度は、従業員を他社へ「在籍型出向」させてスキルアップを図り、出向から復帰した際に賃金を5%以上アップさせた事業主に対して、出向中の賃金の一部を助成するものです。本記事では、2025年度(令和7年度)の最新情報に基づき、産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)の概要、対象要件、助成額、申請方法までを分かりやすく解説します。
産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)とは?
産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)は、労働者のスキルアップを「在籍型出向」という形で支援し、さらに出向復帰後の賃金アップを促すことで、企業の成長と労働者のキャリアアップを両立させることを目的とした制度です。
制度の概要
自社に在籍させながら従業員を他社で就業させる「在籍型出向」を活用し、新たなスキルや知識を習得させます。出向期間が終了し、従業員が自社に復帰した後、出向前と比較して賃金を5%以上上昇させた場合に、出向元事業主が負担した出向中の賃金の一部が助成されます。
この助成金の3つの ключевыхポイント
- スキルアップ目的の「在籍型出向」:雇用調整ではなく、明確なスキルアップ計画に基づいた出向が対象です。
- 出向元への復帰が前提:出向期間終了後は、元の事業所に戻って働くことが前提となります。
- 復帰後の賃金5%以上アップ:復帰後6か月間の各月の賃金が、出向前と比較して全て5%以上上昇している必要があります。
助成対象の要件
助成金を受給するためには、事業主、労働者、そして出向内容それぞれに定められた要件を満たす必要があります。
対象となる事業主(出向元)
- 雇用保険の適用事業所であること。
- 出向元と出向先が、資本的・経済的・組織的関連性などからみて独立性が認められること(親子会社間や代表者が同一の企業間は対象外)。
- 出向開始日の前日から6か月前から支給申請日までの間に、事業主都合の解雇等を行っていないこと。
- 労働保険料を滞納していないこと。
対象となる労働者
- 出向元事業所で雇用される雇用保険被保険者であること。
- 出向開始日の前日時点で、出向元に継続して6か月以上雇用されていること。
- 解雇予告をされている、または退職願を提出している者ではないこと。
対象となる出向
- 労働者のスキルアップを目的としていること。
- 労働者の同意を得ていること。
- 出向元と出向先で出向契約が締結されていること。
- 出向期間が1か月以上2年以内であること。
- 出向元が、出向中の賃金の一部または全部を負担していること。
- 出向中の賃金が、出向前の賃金以上の額であること。
助成額・助成率・上限額
助成額は、企業の規模によって助成率が異なります。上限額も定められているため、事前に確認しておきましょう。
| 中小企業 | 中小企業以外 | |
|---|---|---|
| 助成率 | 2/3 | 1/2 |
| 助成額の計算 | 以下のいずれか低い額に上記の助成率を乗じた額(最長1年分) イ. 出向元が負担した出向中賃金 ロ. 出向前の賃金の1/2の額 |
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| 上限額 | 1人1日あたり:8,870円(※) 1事業所1年度あたり:1,000万円 |
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※上限額は雇用保険の基本手当日額の最高額に連動し、毎年8月に改定される可能性があります。
申請手続きの流れ
申請は、計画の提出から支給申請まで、大きく4つのステップで進みます。
Step 1: 出向実施計画届の提出
初回の出向開始日の前日(推奨は2週間前)までに、管轄の労働局またはハローワークへ「出向実施計画届」や「スキルアップ計画」などの必要書類を提出します。
Step 2: 在籍型出向の実施
提出した計画に基づき、在籍型出向を開始します。
Step 3: 出向からの復帰と賃金アップ
出向期間が終了したら、労働者は出向元に復帰します。復帰後、出向前と比較して賃金を5%以上上昇させます。
Step 4: 支給申請
出向復帰後6か月間の賃金支払いが完了した後、最後の賃金支払日の翌日から2か月以内に、管轄の労働局またはハローワークへ支給申請書と添付書類を提出します。申請はオンラインでも可能です。
よくある質問(FAQ)
公式FAQから、特に重要な質問を抜粋してご紹介します。
- Q1. 企業グループ内の出向も対象になりますか?
- A1. 親会社と子会社間、代表者が同一の企業間など、独立性が認められない場合は助成対象となりません。
- Q2. 出向復帰後の賃金5%アップには、定期昇給も含まれますか?
- A2. はい、含まれます。
- Q3. 出向先が見つからない場合はどうすればよいですか?
- A3. 公益財団法人産業雇用安定センターが、無料で企業間の出向マッチング支援を行っていますので、相談してみることをお勧めします。
- Q4. 申請してから助成金が支払われるまで、どのくらいかかりますか?
- A4. 申請書類に不備がなければ、審査後、可能な限り速やかに支給決定されます。具体的な期間は明示されていませんが、数か月程度かかる場合が多いです。
まとめ
産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)は、計画的な人材育成と従業員の待遇改善を国が後押ししてくれる、非常に魅力的な制度です。要件が細かく設定されているため、計画段階から厚生労働省のガイドブックを熟読し、不明点があれば管轄の労働局に相談しながら進めることが成功の鍵となります。
この機会に在籍型出向を活用し、企業の競争力強化と従業員満足度の向上を目指してみてはいかがでしょうか。
詳細・お問い合わせ
最新の情報や申請様式のダウンロードは、厚生労働省の公式ページをご確認ください。
ご不明な点は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局またはハローワークの助成金窓口へお問い合わせください。