障害のあるお子さんやご家族の介護をされている方で、「少しだけ自分の時間がほしい」「急な用事で面倒を見られない…」とお悩みではありませんか?そんなご家族の負担を軽減し、心身のリフレッシュ(レスパイト)を目的とした公的な支援制度が「日中一時支援事業」です。この制度を活用することで、サービス利用料の原則9割が自治体から補助され、ご自身の時間を確保しながら、安心してご本人を預けることができます。この記事では、日中一時支援事業の詳しい内容から、対象者、利用料金、具体的な申請手順、そして利用する上でのポイントまで、どこよりも分かりやすく徹底的に解説します。介護の負担を一人で抱え込まず、公的なサポートを上手に活用するための第一歩として、ぜひ最後までお読みください。
この記事のポイント
- 日中一時支援事業は、障害者(児)を介護する家族の休息(レスパイト)を目的とした市区町村の制度
- サービス利用料の原則9割が補助され、自己負担は1割で済む
- 所得に応じて自己負担が0円になる場合もある
- 利用にはお住まいの市区町村への事前申請と支給決定が必要
- 申請方法から事業所の選び方まで、具体的なステップを詳しく解説
① 日中一時支援事業の概要
正式名称と実施組織
この事業の正式名称は「日中一時支援事業」です。障害者総合支援法に基づく「地域生活支援事業」の一つとして位置づけられており、事業の実施主体は国や都道府県ではなく、皆様がお住まいの市区町村となります。そのため、利用条件やサービス内容の細部は自治体によって若干異なる場合があります。
目的・背景
日中一時支援事業の主な目的は、障害のある方(障害者・障害児)を日常的に介護しているご家族の負担を軽減することです。具体的には、以下のような目的があります。
- レスパイトケアの提供: 介護者が一時的に介護から離れ、心身のリフレッシュを図る時間(レスパイト)を確保します。
- 就労支援: 介護者が安心して仕事や社会活動に参加できるよう支援します。
- 緊急時の対応: 冠婚葬祭や病気、事故といった、ご家族の急な都合に対応します。
- 本人の活動の場の確保: 障害のあるご本人にとっても、日中の活動の場を確保し、社会とのつながりを促進する目的があります。
この事業は、介護者とご本人の両方にとって、より豊かな地域生活を送るための重要なセーフティネットと言えます。
② 補助額・利用者負担について
原則1割負担!手厚い補助が魅力
日中一時支援事業の最大の魅力は、経済的な負担が少ない点です。サービス利用にかかる費用の原則9割を市区町村が補助してくれるため、利用者の自己負担は原則1割となります。
さらに、負担が大きくなりすぎないよう、世帯の所得状況に応じて1ヶ月あたりの自己負担額に上限が設けられています。これを「負担上限月額」と呼びます。
重要ポイント:生活保護を受給している世帯や、市町村民税が非課税の世帯は、この負担上限月額が0円となり、無料でサービスを利用することができます。
負担上限月額の区分(国の基準)
負担上限月額は、国の制度に基づいて以下のように区分されています。多くの自治体でこの基準が採用されています。
| 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
|---|---|
| 生活保護受給世帯 | 0円 |
| 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
| 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満 ※) ※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は所得割28万円未満 | 9,300円 |
| 上記以外(市町村民税課税世帯) | 37,200円 |
※障害児の場合、保護者の属する世帯の所得割が28万円未満の場合は負担上限月額が4,600円となる場合があります。詳細はお住まいの自治体にご確認ください。
③ 対象者・利用条件
日中一時支援事業を利用できるのは、日中に介護する方がいないため、一時的に見守り等の支援が必要な障害者(児)です。具体的には、多くの自治体で以下のような方が対象とされています。
- 身体障害者手帳の交付を受けている方
- 療育手帳の交付を受けている方
- 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方
- 発達障害など、医師の診断書等により障害があると認められる方
- 障害者総合支援法の対象となる難病患者等
- その他、自治体が特に必要と認める方
基本的には、お住まいの市区町村に住民票があることが条件となります。手帳の有無だけでなく、実際の生活状況や介護者の状況を総合的に判断して支給が決定されますので、「うちは対象になるだろうか?」と迷われたら、まずは窓口に相談することが大切です。
④ 補助対象となるサービス内容
日中一時支援事業で提供されるサービスは、市区町村と契約した事業所(障害福祉サービス事業所など)において、日中の活動の場を提供し、見守りや必要な介護を行うものです。
主なサービス内容
- 見守り: 安全に過ごせるよう、スタッフが見守りを行います。
- 日常的な訓練: 社会に適応するための簡単な訓練やプログラムを提供します。
- 創作的活動・レクリエーション: 絵画、工作、音楽、運動などの活動機会を提供します。
- 食事や排せつの介助: 必要に応じて、食事やトイレのサポートを行います。
対象外となる経費
以下の費用は補助の対象外となり、別途実費負担が必要となる場合があります。事業所によって異なりますので、利用契約時に必ず確認しましょう。
- 食費、おやつ代
- 創作活動にかかる材料費
- 送迎サービスを利用した場合の費用(自治体によっては一部補助あり)
- 入浴サービスを利用した場合の費用
⑤ 申請方法・利用開始までの手順
日中一時支援事業を利用するためには、事前にお住まいの市区町村へ申請し、「支給決定」を受ける必要があります。ここでは、一般的な申請から利用開始までの流れをステップごとに解説します。
Step 1:相談
まずはお住まいの市区町村の障害福祉担当課(障害福祉課、障がい者支援課など)や、相談支援事業所に相談します。現在の状況や、どのような理由でサービスを利用したいかを伝えましょう。この段階で、申請に必要な書類や手続きの流れについて詳しい説明を受けられます。
Step 2:申請書類の提出
窓口で受け取った申請書類に必要事項を記入し、必要な添付書類とともに提出します。一般的に以下の書類が必要となります。
- 支給申請書
- 世帯状況・収入等申告書(同意書)
- 各種手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳など)の写し
- マイナンバーが確認できる書類
- その他、自治体が必要と認める書類(例:就労状況証明書など)
Step 3:支給決定・受給者証の交付
提出された書類に基づき、市区町村が審査を行います。サービスの利用が必要と認められると、「支給決定通知書」と「地域生活支援事業受給者証」が交付されます。この受給者証には、1ヶ月に利用できる日数(支給量)や負担上限月額などが記載されています。
Step 4:事業所との契約
次に、利用したい日中一時支援事業所を選び、直接連絡を取ります。見学や面談を行い、サービス内容や事業所の雰囲気を確かめた上で、問題がなければ利用契約を結びます。契約の際には、交付された受給者証を必ず提示してください。
Step 5:利用開始
契約が完了したら、いよいよサービスの利用開始です。利用したい日時を事業所に予約して利用します。
⑥ 支給決定を受けるためのポイント
日中一時支援事業は、競争して採択を勝ち取るタイプの補助金とは異なり、要件を満たし、サービスの必要性が認められれば基本的に利用できる福祉サービスです。それでも、スムーズに支給決定を受けるためにはいくつかのポイントがあります。
- サービスの必要性を具体的に伝える: 申請時の聞き取りや書類において、「なぜこのサービスが必要なのか」を具体的に伝えることが重要です。「介護者の持病の通院のため」「週に数時間、休息をとって精神的な安定を保ちたい」「兄弟の学校行事に参加するため」など、具体的な理由を整理しておきましょう。
- 相談支援専門員と連携する: 障害福祉サービスの利用計画(サービス等利用計画)を作成してくれる相談支援事業所の専門員に相談するのも有効です。専門的な視点から、サービスの必要性をまとめた書類作成のサポートをしてくれる場合があります。
- 書類は不備なく提出する: 申請書類に記入漏れや添付書類の不足があると、手続きが遅れる原因になります。提出前に、窓口で説明された内容と照らし合わせて、何度も確認しましょう。
⑦ よくある質問(FAQ)
Q1. 短期入所(ショートステイ)との違いは何ですか?
A. 最も大きな違いは、宿泊を伴うかどうかです。日中一時支援は日帰りでの利用が原則ですが、短期入所(ショートステイ)は宿泊を伴うサービスです。日中の数時間だけ預けたい場合は日中一時支援、夜間も含めて1日以上預けたい場合は短期入所、と使い分けるのが一般的です。
Q2. 利用できる日数や時間に上限はありますか?
A. はい、あります。1ヶ月に利用できる日数(時間)の上限(支給量)は、申請内容や自治体の判断によって決定され、受給者証に記載されます。例えば、福岡市では「月10回を限度」と定められています。支給量の範囲内であれば、自由に利用日を調整できます。
Q3. どの事業所でも利用できますか?
A. いいえ、お住まいの市区町村と「日中一時支援事業」の委託契約を結んでいる事業所でのみ利用可能です。利用可能な事業所の一覧は、市区町村の障害福祉担当課の窓口や、自治体のウェブサイトで確認できます。
Q4. 申請してから利用開始まで、どのくらいかかりますか?
A. 自治体や申請時期によって異なりますが、一般的には申請から支給決定まで2週間から1ヶ月程度かかることが多いです。その後、事業所探しと契約手続きがあるため、利用したい時期が決まっている場合は、早めに相談・申請を始めることをお勧めします。
Q5. 他の障害福祉サービスと併用できますか?
A. 併用は可能ですが、同じ時間帯に複数のサービスを重複して利用することはできません。 例えば、放課後等デイサービスを利用している時間に、同時に日中一時支援を利用することはできません。利用計画を立てる際に、担当の相談支援専門員とよく相談してください。
⑧ まとめと次へのアクション
今回は、障害のある方(児)とそのご家族を支える「日中一時支援事業」について詳しく解説しました。
重要ポイントの再確認
- 介護者の休息(レスパイト)や就労支援を目的とした市区町村の公的サービスです。
- 利用料の自己負担は原則1割で、所得に応じて上限額が設定されています。
- 利用には事前の申請と受給者証の交付が必要です。
介護は長期戦です。介護者の方が心身ともに健康でいることが、結果的にご本人にとっても最善のケアにつながります。「疲れた」「少し休みたい」と感じることは、決して悪いことではありません。その気持ちを一人で抱え込まず、日中一時支援事業のような社会資源を積極的に活用してください。
この記事を読んで少しでも興味を持たれた方は、ぜひ最初の一歩として、お住まいの市区町村の障害福祉担当課や、お近くの相談支援事業所に電話で問い合わせてみましょう。専門のスタッフが、あなたの状況に合わせたアドバイスをしてくれるはずです。