岩手県西和賀町で暮らす人々にとって、冬の積雪は生活の根幹を揺るがす大きな問題です。年間降雪量が10メートルを超えることもあるこの地域では、道路の確保がそのまま命の道を守ることに直結します。今回ご紹介する除雪作業員育成支援事業は、そんな地域のインフラを支える担い手を育てるための大切な制度です。資格取得のハードルを下げ、次世代の作業員を確保しようとする町の熱意が込められています。
この補助金の要点
西和賀町内の除雪業務に従事することを目指す方が、大型特殊免許や車両系建設機械などの資格を取る際の費用を補助してくれます。補助率は費用の3分の2で、最大10万円まで受け取れるため、自己負担を大幅に抑えることが可能です。将来的に地域の守り手として活躍したい方や、除雪を仕事に取り入れたい事業主にとって、非常に心強い味方となるでしょう。
西和賀町が抱える雪と過疎の現実
岩手県の南西部に位置する西和賀町は、四方を奥羽山脈などの連山に囲まれた自然豊かな盆地です。しかしその美しさの反面、冬の厳しさは県内でも群を抜いています。11月下旬から4月上旬まで続く長い冬の間、町は深い雪に閉ざされるのが日常です。平均気温は9度と冷涼で、積雪量は平年でも2メートルに達する特別豪雪地帯に指定されている事実は、この地での暮らしがいかに過酷かを物語っています。
町の歴史を紐解くと、かつては19,364人もの人口を誇った時期もありました。しかし、基幹産業だった鉱山の閉山や、湯田ダムの建設に伴う集落の水没移転といった大きな転換点を経て、人口は減少の一途を辿っています。令和2年の調査では5,134人まで減少しており、ピーク時の4分の1程度になりました。さらに深刻なのは高齢化のスピードで、現在では町民の2人に1人が高齢者という、県内でも最も高い高齢化率を記録しています。
このような状況下で、冬の交通機能を維持することはもはや町全体の存続に関わる課題です。町道の改良率は62パーセントに留まっており、急峻な地形を縫うように走る道路を維持するには、熟練の除雪技術が欠かせません。しかし、若年層の流出が続き、現場を支える作業員の高齢化も進んでいます。このままでは、冬の間に救急車が通れなくなったり、高齢者が買い物に行けなくなったりするリスクが高まる一方です。
除雪作業員育成支援事業の詳しい内容
西和賀町が実施しているこの支援策は、まさに現場の切実な声から生まれた制度といえます。除雪車を運転するためには、一般的な運転免許だけでなく、大型特殊免許や作業機を操作するための資格が必要です。これらの講習費用は決して安くはなく、個人で負担するには重い金額ですが、町がその3分の2を肩代わりしてくれます。上限額は10万円と定められており、大抵の技能講習や免許取得にかかる自己負担を最小限にできる仕組みです。
補助の対象となる経費と金額
対象となるのは、資格取得に必要な受験料や受講料の実費です。交通費や宿泊費、教材費の一部などは対象外となる場合があるため、事前に確認が必要ですが、主要な教育機関への支払額の大部分がカバーされると考えて差し支えありません。補助率は3分の2ですので、例えば15万円の講習を受けた場合、10万円の補助が受けられる計算です。これによって、個人のスキルアップと地域の安全確保を同時に達成することを目指しています。
補助上限額
10万円
なぜ今、除雪の資格が必要とされているのか
西和賀町の持続的発展計画では、産業の振興と生活環境の整備が二本の柱として掲げられています。特に農業においては、高原性の気候を活かした花卉栽培や稲作が盛んですが、冬の間は農作業が制限されます。かつては冬の副業として除雪業務に従事する農家も多かったのですが、現在はその担い手が不足しています。農業の基盤を維持するためにも、冬期間の安定した雇用と収入を確保する手段として、除雪スキルの習得が推奨されているのです。
また、町が進める地域包括ケアシステムにおいても、除雪は重要なピースを担っています。高齢化率が50パーセントを超える町では、一人暮らしの高齢世帯が増え続けています。家から一歩外に出るための道が雪で塞がれてしまえば、医療や介護のサービスを受けることすら困難になります。町内の病院である西和賀さわうち病院を中心とした医療体制を維持するためにも、医師や看護師、そして患者が移動できる道路環境を整えることは、もはや福祉施策の一部と言っても過言ではありません。
注意点
この補助金はあくまで町道などの公的な除雪業務に従事する意思がある方を対象としています。単に自分の敷地内を掃除するためだけに資格を取りたいというケースでは、支給の対象外となる可能性が高いため注意してください。また、予算には限りがあるため、年度の途中で受付が終了してしまうことも考慮しておくべきです。
申請から交付までの流れ
補助金をスムーズに受け取るためには、正しい手順を踏むことが何よりも大切です。特に資格取得の前に申請が必要な場合があるため、思い立ってすぐに講習に申し込むのではなく、まずは町の担当窓口に相談することから始めましょう。手続きはそれほど複雑ではありませんが、提出書類に不備があると審査が遅れてしまいます。
役場への事前相談
まずは建設課などの担当部署に、自分が補助対象に該当するか確認します。取得したい資格の内容や、今後の除雪業務への関わり方について伝えましょう。
交付申請書の提出
指定の申請書に必要事項を記入し、受講予定の講習の費用がわかる書類を添えて提出します。この段階で町の承認を得る必要があります。
資格の取得・講習受講
承認が下りたら、実際に教習所や講習機関で学び、資格を取得します。領収書は必ず原本を保管しておかなければなりません。
実績報告書の提出
無事に資格が取れたら、合格証の写しや領収書とともに実績報告を行います。これにより、最終的な補助金額が確定します。
補助金の振り込み
確定した補助金が指定の口座に振り込まれます。通常、申請から振り込みまでには一定の審査期間を要します。
採択に向けたポイントと将来の展望
この補助金制度は、単なる費用の補填ではありません。町が掲げる『未来へつなぐ 豊かな自然 豊かな心 笑顔あふれる健幸のまち』というビジョンを実現するための投資です。したがって、申請時には『自分がどのように地域の除雪に貢献したいか』という意思を明確に持っておくことが大切だと言えます。例えば、地元の建設会社での就労を予定している場合や、農閑期の地域貢献として除雪隊に加わる計画がある場合は、採択の際にも好意的に受け止められるはずです。
ポイント
西和賀町では除雪だけでなく、ICTを活用した教育環境の整備や、温泉資源を活かしたインバウンド対策など、多角的な町づくりを進めています。除雪の資格を持つことは、これらの多面的な地域活動を冬の間もしっかりと支えるための『基盤』を作ることになります。自分の仕事の幅を広げるだけでなく、地域に不可欠な存在になるチャンスと考えてみてはいかがでしょうか。
将来的な人口推計では、2040年には人口が3,000人を割り込む可能性も示唆されています。しかし、町は第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略により、その目標値を引き上げ、産業振興や子育て環境の充実に注力しています。冬の道を守る作業員の育成は、こうした長期的な町の活性化を裏から支える、極めて重要な役割を担っているのです。
よくある質問
Q. 西和賀町に住民票がないと申請できませんか?
A. 原則として、町内に住所がある方、または町内の事業所に勤務していて町道の除雪に従事する予定の方が対象です。詳しい居住要件については、最新の募集要項を確認することをおすすめします。
Q. すでに自分で支払って取得した資格は遡って申請できますか?
A. 一般的な補助金の原則として、事前申請が必要です。支払い済みの経費を後から請求することは難しいケースが多いため、必ず受講前に役場へ相談するようにしましょう。
Q. 大型免許だけでなく、けん引免許やクレーンなども対象になりますか?
A. 除雪業務に直接必要とされる資格であれば対象となる可能性があります。大型特殊免許だけでなく、車両系建設機械(整地用など)の技能講習なども含まれることが一般的です。
Q. 資格を取った後、必ず町で働かなければなりませんか?
A. 補助の目的が除雪作業員の育成であるため、取得後に町の除雪業務に従事することが条件となります。従事しなかった場合には補助金の返還を求められることもあるため、将来の計画をしっかり立てた上で申し込みましょう。
Q. 年齢制限はありますか?
A. 特定の年齢制限が設けられていない場合が多いですが、長く現場で活躍できる若手や中堅層の育成が主眼に置かれています。健康状態で作業に支障がなければ、幅広い世代が検討できる制度と言えます。
まとめ
西和賀町の除雪作業員育成支援事業は、厳しい冬を乗り越えるための町の知恵と支援が詰まった制度です。最大10万円の補助を受けながら、地域に貢献できるスキルを身につけられるチャンスはそう多くありません。少子高齢化が進む中で、誰かがやらなければならない仕事を、自らの手で担っていく。その第一歩を町が後押ししてくれます。冬の守り手として、新しい一歩を踏み出してみるのはいかがでしょうか。まずは役場の窓口で、あなたの熱意を伝えてみることから始めてみてください。
※本記事の情報は執筆時点のものです。最新情報は西和賀町の公式サイトや担当窓口でご確認ください。