新しい工場やオフィスの拠点を構える際、自治体が提供する企業立地支援制度を活用するかどうかで、事業の初期コストと収益性は劇的に変わります。特に地方都市では、数億円から数十億円規模の破格な補助金を用意して、企業の呼び込みを積極的に行っている状況です。本記事では、国内でもトップクラスの支援額を誇る浜松市、小松市、伊丹市の制度を詳しく掘り下げ、賢い制度の選び方と申請のポイントを実務的な視点で解説します。
この補助金の要点
浜松市と小松市では最大38億円から50億円という、全国でも類を見ない規模の補助が用意されています。また、伊丹市のように固定資産税の半額を数年にわたり還付する奨励金や、雇用人数に応じた現金支給を組み合わせることで、移転に伴う経費の大部分をカバーできる可能性があります。
全国トップクラスの支援額を誇る3自治体の概要
まず注目すべきは、静岡県浜松市の支援体制でしょう。浜松市は’やらまいか’という挑戦精神を大切にする土地柄で、製造業への支援が極めて手厚いのが特徴です。具体的には、用地取得や雇用に対して最大8億円、建物や設備投資に対して最大20億円、さらには税相当額を還付する奨励金として最大10億円という、合計38億円にものぼる支援メニューを揃えています。これほどの規模は、中小企業のみならず大規模な生産拠点を探している企業にとっても、大きな検討材料となるはずです。
次に石川県小松市の事例を見ると、こちらも負けてはいません。小松市単独で最大10億円の助成を行っていますが、石川県の制度と併用することで、なんと最大50億円という驚異的な支援を受けられる可能性があります。対象となる業種も製造業に限らず、物流施設やデータセンター、さらにはホテルやコールセンターまで幅広く設定されているため、多種多様なビジネスチャンスが広がっているといえます。
一方で兵庫県伊丹市は、地域に根ざした産業基盤の強化を重視しています。製造業や情報通信業を対象に、固定資産税や都市計画税の2分の1相当を3年から5年間にわたって還付する仕組みです。これに加え、市民を雇用した場合には1人につき20万円、女性雇用であれば30万円という加算措置もあり、地元採用を重視する企業には非常に使い勝手の良い制度設計になっています。
小松市(県併用時)の補助上限額
5,000,000,000円
対象となる具体的な経費と支援メニューの内訳
土地と建物の取得に関する支援
企業が立地を検討する際、最も大きな負担となるのが土地の購入代金と建設費です。浜松市では、用地取得費に対して手厚い補助が出るため、初期投資を抑えたい企業に適しています。小松市においても、物流施設や製造拠点の建設は大きな助成対象となります。一方で、自社で土地を持たずに賃貸でスタートしたい場合には、伊丹市の’貸工場等賃料補助金’が役立つでしょう。月額賃料の半分、最大10万円を最長60ヶ月間も補助してくれるため、小規模なスタートアップや製造業の進出には心強い味方となります。
雇用維持と人材確保へのボーナス
立地後の運営で課題となるのが人材の確保です。伊丹市の雇用奨励金は、市民を新規雇用することで1人あたり数十万円のキャッシュバックを受けられるため、採用コストの補填に最適です。また、市外から従業員が転入してきた場合には、1世帯につき10万円の転入奨励金が出る仕組みも面白いポイントです。これにより、単なる企業の移転だけでなく、従業員の生活基盤をその土地に移すための後押しが期待できます。
ポイント
伊丹市では、女性の雇用に対して1人30万円という高い補助額を設定しています。これはダイバーシティを推進する企業にとって、経済的なメリットと同時に企業の社会的価値を高める追い風となるでしょう。
立地計画から補助金受領までの5ステップ
補助金の申請は、タイミングが命です。多くの制度において、工事の着工前や土地の契約前に事前の計画認定が必要となります。手続きの一般的な流れを確認しておきましょう。
事前相談と物件探し
まずは各自治体の窓口(浜松市のコンシェルジュ等)へ相談し、自社の事業計画が対象になるか確認します。同時に、1000社以上のネットワークを持つ東京都企業立地相談センターなどを活用して、最適な物件や土地を絞り込みます。
立地計画の認定申請
工事の着手や不動産取得の前に、指定の様式で計画書を提出します。ここで将来の雇用人数や設備投資額を明記する必要があるため、現実的な事業計画を立てることが重要です。
建設・設備導入と操業開始
認定を受けた後、実際に事業所を建設し、設備の搬入を行います。操業を開始し、税金を納付したり従業員を雇用したりした実績が補助の前提となります。
実績報告と交付申請
実際に支払った経費の領収書や、雇用契約書、納税証明書などを添えて実績を報告します。この書類審査を経て、ようやく補助金額が確定します。
補助金の受領と継続報告
指定口座に補助金が振り込まれます。ただし、受領後数年間は操業を維持する義務があり、途中で撤退すると返還を求められるケースもあるため注意が必要です。
採択率を高める!申請時に意識したい3つのコツ
企業立地補助金は、要件さえ満たせば高い確率で受給できる性質のものですが、それでも準備不足は禁物です。審査をスムーズに進めるために、行政書士や診断士の視点からポイントをお伝えします。
第一に、自治体の総合計画や産業ビジョンを読み込むことです。例えば、浜松市なら’イノベーション構想’、小松市なら’地域経済牽引事業’といったキーワードに沿った計画であれば、担当者の理解も得やすくなります。自社の事業がどのように地域の経済波及効果をもたらすのか、具体的な数字で示すことが説得力を生みます。
第二に、’雇用計画’の妥当性です。単に人数を並べるのではなく、どのような職種で、どの程度の賃金水準で採用するのかを明確にします。特に伊丹市のように市民雇用が直接的なインセンティブになる場合、地元のハローワーク等との連携計画を含めると評価が高まります。
第三に、土地に関する法規制の早期確認です。伊丹市の製造業のように、準工業地域や工業地域でなければ対象外となるケースも珍しくありません。また、埋蔵文化財の試掘調査が必要な地域もあり、これに気づかずに着工を急ぐと、補助対象から外れるだけでなく工事がストップするリスクもあります。必ず事前に都市計画課や産業振興課と綿密な打ち合わせを行いましょう。
注意点
倉庫や駐車場といった’付帯設備のみ’の設置は、多くの自治体で補助対象外となっています。あくまで’操業を伴う事業所’の実体が必要であることを忘れないでください。
よくある質問:企業立地支援制度の疑問を解消
Q. 県と市の補助金は同時に受け取ることができますか?
A. 小松市や浜松市の例にもある通り、多くの自治体で県と市の制度を併用することが可能です。ただし、対象経費が重複してはいけないといった細かなルールがあるため、合計でいくら受給できるのかは、必ず双方の窓口に確認をとるようにしましょう。
Q. 既に土地を購入してしまった後でも申請できますか?
A. 原則として、契約や着工前の’事前申請’が必須条件となっているケースがほとんどです。遡っての申請は認められないことが多いため、不動産会社と契約書を取り交わす前に、自治体への計画書提出を済ませておく必要があります。
Q. 本社機能だけを移転する場合も対象になりますか?
A. 小松市のように’全ての業種における本社機能’を対象に含めている自治体であれば可能です。一方で、製造業に特化している支援メニューもあるため、自社の移転形態(工場、事務所、研究所、物流拠点)に合わせた制度選びが不可欠といえます。
Q. 補助金を受け取った後に、やむを得ず縮小や撤退をする場合は?
A. 一般的に5年から10年程度の’操業維持義務’が課されます。この期間内に事業所を閉鎖したり、他市へ移転したりすると、受領した補助金を月割りや全額で返還しなければならない義務が生じます。長期的な視点での立地判断が求められます。
Q. 外資系企業や、これから新設する会社でも使えますか?
A. 資本の出自に関わらず、日本国内で登記を行い、指定の地域で操業を行う事業者であれば対象となります。新設会社の場合でも、しっかりとした事業計画書と資金調達の見込みが証明できれば、採択のチャンスは十分にあります。
まとめ
企業立地支援制度は、単なる資金援助ではなく、自治体と企業が手を取り合って地域の未来を築くための’投資’です。最大50億円といったインパクトのある数字に目を奪われがちですが、大切なのは自社の事業戦略と、その土地の産業特性がマッチしているかどうか。浜松市の製造業集積、小松市の幅広い受け入れ、伊丹市のきめ細かな雇用支援など、それぞれの強みを比較検討しましょう。まずは各自治体の専門窓口や、東京都企業立地相談センターのような情報集約機関を活用して、一歩踏み出してみることをお勧めします。
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