愛媛県の南西部に位置する鬼北町は、全国で唯一、名前に’鬼’の文字を冠する自治体として有名です。この町では、地域の活力を維持し経済基盤を強固にするため、外からの移住者や若い世代の定着を強力にバックアップする’「鬼の町で暮らす・働く」支援事業’を展開しています。事業者が新しい人材を雇用した際に支給される奨励金や、個人の起業を助ける補助金など、複数の施策が組み合わさっているのが特徴です。今回は、その中でも特に利用価値の高い’定住化雇用促進事業奨励金’を中心に、事業主が活用できる支援策を徹底的に解説していきます。
この補助金の要点
町内の事業所が新卒者や町外からの移住者を正規雇用した場合、1人あたり最大50万円の奨励金を受け取ることができます。雇用だけでなく、資格取得や起業、さらには事業承継(継業)までを網羅した包括的な支援パッケージとなっており、地域での腰を据えたビジネス展開を応援してくれる制度です。
鬼北町が実施する「鬼の町で暮らす・働く」支援事業の全体像
鬼北町が令和7年度も継続して実施するこのプロジェクトは、単なる資金援助にとどまらず、町に人を呼び込み、地域経済を循環させるための大きな戦略の一部といえます。少子高齢化が進む中山間地域において、最も深刻な課題は’働く場所の確保’と’担い手不足’に他なりません。町はこの課題に対し、事業主への直接的な雇用支援と、働く側へのスキルアップ支援、そして新たに商売を始める人への起業支援という三段構えで応えています。
まず中心となるのが、事業主が人材を迎え入れる際のコストを軽減する’定住化雇用促進事業奨励金’です。正規雇用を条件とすることで、労働者の生活基盤を安定させ、町への定着率を高める狙いがあります。次に、既存の従業員や求職者が仕事に役立つ国家資格を取得する際の費用を助成する’資格取得支援事業補助金’があり、これは現場の即戦力化を促すものです。さらに、空き店舗などを活用して新しい風を吹き込む起業者には’起業チャレンジ支援事業補助金’が用意されており、最大150万円という手厚い設定になっています。
定住化雇用促進事業奨励金の対象となる雇用者とは
この奨励金を活用するためには、どのような人物を雇い入れるかが非常に重要です。対象となるのは、学校を卒業して間もない新卒者や、町外から移住してきて1年以内に正規雇用された方々です。具体的には、中学から大学、専門学校などを卒業して1年未満のフレッシュな人材はもちろん、卒業後3年以内でまだ一度も正規雇用の経験がない’既卒者’も含まれます。これは若者の早期離職や未就業を防ぎ、鬼北町でのキャリア形成を促すための配慮ですね。
また、移住者についても手厚く、町外から転入して住民登録を行い、その後1年以内に雇用された場合も対象になります。さらに、ハローワークで求職活動をしていた方が正規雇用された場合や、40歳未満の事業後継者として雇用されたケースも認められます。このように、多角的な視点で’町で働く人’を定義している点が、この制度の使い勝手の良さを物語っています。
補助上限額(定住化雇用促進)
500,000円 / 人
事業主に求められる具体的な要件と条件
奨励金を受け取るためには、事業主側も一定の基準を満たしている必要があります。まず大前提として、’鬼の町で暮らす・働く支援プロジェクト’にあらかじめ登録している事業者でなければなりません。この事前登録は、町と一緒に地域を盛り上げていくパートナーとしての意思表示でもあります。また、当然ながら労災保険や雇用保険、社会保険といった法定の保険に適切に加入していることが求められます。コンプライアンスを重視する姿勢が、助成対象の前提条件となっているわけです。
さらに注意が必要なのは、雇用の前後1年間に事業主都合による解雇を行っていないことです。新しい人を雇う一方で既存の従業員をリストラしているようでは、地域の雇用安定にはつながらないという考え方に基づいています。また、町からの人件費が含まれる委託契約を結んでいる場合や、町の出資を受けている団体などは対象外となる場合があるため、自身の事業形態が条件に合致するか、事前に窓口で相談することをお勧めします。
注意点
奨励金の対象となるのは’正規雇用’のみです。期間の定めがない労働契約であり、定年まで継続して雇用される形態を指します。パートやアルバイトといった非正規雇用は対象外ですが、非正規から正規雇用への転換は対象に含まれるため、能力のある方をステップアップさせる際の原資として活用するのも一つの手でしょう。
もう一つの柱:起業チャレンジ支援事業補助金
鬼北町で新しく商売を始めたいと考えている方にとって、最も頼もしいのがこの’起業チャレンジ支援事業補助金’です。この制度は、店舗の新築や改築、さらには必要な機械装置の購入費まで幅広くカバーしています。特筆すべきは、補助率が3分の2と非常に高いことです。例えば、150万円の改装工事を行った場合、そのうちの100万円が補助される計算になります。これは資金力の限られた創業期において、どれほど大きな助けになるか想像に難くありません。
| 支援対象の分類 | 補助率と限度額 |
|---|---|
| 店舗等の新築・改築工事費 | 3分の2以内(上限100万円) |
| 設備購入費・開業手続経費 | 3分の2以内(上限50万円) |
対象経費には、空き家や空き店舗の外装・内装工事だけでなく、給排水や空調といったインフラ設備、さらには司法書士や行政書士に支払う設立登記の代行費用まで含まれています。ただし、この補助金を受けるには、5年以上継続して営業する強い意思が必要となります。一時的なブームに乗った起業ではなく、町に根を張り、地域住民に愛される店作りを目指す方を町は求めているのです。
申請から交付までの5つのステップ
補助金や奨励金の申請は複雑に見えますが、順を追って進めれば決して難しいものではありません。鬼北町の担当課と連携を取りながら、着実に手続きを進めていきましょう。
プロジェクトへの事前登録
まずは’鬼の町で暮らす・働く支援プロジェクト’に事業者として登録を済ませます。これがすべての支援の入り口となります。
人材の募集と正規雇用
ハローワークなどを通じて対象者を募集し、正規雇用の契約を結びます。労働条件通知書や雇用契約書の整備を忘れずに行いましょう。
交付申請書の提出
必要書類を揃えて鬼北町役場へ提出します。住民票や保険の加入証明、事業所の納税証明などが必要になります。
審査と交付決定
町が申請内容を審査し、適正と判断されれば交付決定通知が届きます。不備がある場合は修正を求められることがあります。
実績報告と請求
一定期間の雇用実績などを報告し、確定した金額を町に請求します。その後、指定の口座に奨励金が振り込まれます。
採択されやすくなるためのポイントとコツ
この奨励金は、予算の範囲内で交付されるため、早めの申請が鉄則です。しかし、単に早いだけでなく、町が目指す’地域活性化’という趣旨を理解した上で準備を進めることが、スムーズな審査通過に繋がります。まず、雇用の際には「なぜ鬼北町でこの人を雇う必要があるのか」というストーリーを明確にしておきましょう。移住者であれば、その方が町に馴染み、長く定住するためのサポート体制があることをアピールできると理想的です。
ポイント
書類の不備を避けるためには、申請前に役場の企画振興課に下相談へ行くことを強く推奨します。特に’定住化雇用促進事業奨励金’と’資格取得支援’を組み合わせて活用する場合などは、手続きのタイミングが重要になるため、プロの助言を得るのが近道です。また、町税の滞納がないことは必須条件ですので、法人の場合は早めに納税証明書を準備しておきましょう。
起業を検討している方は、事業計画書の作り込みが重要になります。鬼北町の地域資源(特産品のキジ肉や豊かな自然など)をどう活かすか、周辺の商店とどう協力していくかといった視点を盛り込むと、町の担当者からも’応援したい’と思ってもらえる可能性が高まります。補助金はあくまで呼び水であり、その後の持続可能な経営こそが目的であることを忘れないでください。
よくある質問(FAQ)
Q. 1つの事業所で何人まで奨励金を申請できますか?
A. 定住化雇用促進事業奨励金については、原則として予算の範囲内であれば人数制限は明記されていません。ただし、資格取得支援事業については1事業所につき年度内2名までという制限があります。複数の雇用を予定している場合は、事前に町へ相談することをお勧めします。
Q. 県外からの移住者を採用しましたが、本人がまだ住民票を移していません。
A. 奨励金の対象となるには、鬼北町に住民登録を行っていることが必須条件です。転入後1年以内の雇用が対象となるため、早急に住民票の移動を済ませていただくよう本人に案内してください。住民登録がない状態での雇用は、移住者枠としての申請が認められません。
Q. 個人事業主ですが、社会保険への加入は必須ですか?
A. 常時雇用する従業員が5人以上の個人事業主の場合は、法律上、社会保険の適用事業所となるため加入が必須です。5人未満の場合は任意適用となりますが、この制度の趣旨である’雇用環境の安定’を考慮し、加入状況について役場で確認されることがあります。労働保険(労災・雇用)は人数に関わらず必須です。
Q. すでに雇用しているパート社員を正社員に切り替えた場合は対象になりますか?
A. はい、非正規雇用から正規雇用への転換も対象に含まれます。ただし、その社員が新卒者や移住者、求職活動中の方など、制度が定める対象者の属性に当てはまっている必要があります。ステップアップによる地域定着は大いに歓迎されるケースです。
Q. どのような資格取得が補助の対象になりますか?
A. 国家資格や国家検定が主な対象です。具体的には、建築士や施工管理技士、調理師、介護福祉士などが挙げられます。業務に直接関連する資格であることが求められますが、対象となる資格の範囲は広いため、取得を検討している資格が該当するかどうか、あらかじめ窓口で確認しておくと安心です。
まとめ
鬼北町の「鬼の町で暮らす・働く」支援事業は、地域と共に成長したいと願う事業者にとって、非常に心強い追い風となります。最大50万円の雇用奨励金や、最大150万円の起業補助金は、地方でのビジネスリスクを軽減し、質の高い人材を確保するための大きな武器になるでしょう。自然豊かな環境の中で、新しい挑戦を始めようとしている皆さま、ぜひこの制度を活用して、鬼北町の未来を担う一助となってください。申請の第一歩は、役場の窓口での対話から始まります。早めの行動が、成功への扉を開く鍵となるはずです。
※本記事の情報は執筆時点のものです。最新の募集状況や詳細な要件については、必ず鬼北町の公式サイトまたは企画振興課の窓口でご確認ください。