令和6年能登半島地震の影響により、石川県内の多くの事業者が今なお厳しい経営状況に置かれています。こうした中で、物価高騰への対応や深刻な人手不足を解消するための賃上げは避けて通れない課題ですが、復興途上の企業にとって人件費の増加は非常に大きな負担です。そこで石川県は、被災した中小企業の雇用維持と処遇改善を支えるため、1人あたり5万円、最大50万円を支給する支援金制度を開始しました。
この補助金の要点
能登半島地震で被災し、さらに売上が減少している石川県内の中小企業が対象です。従業員の時給を70円以上引き上げることで、1人につき5万円の支援金を受け取れる定額制の制度となっています。最大10人分まで申請できるため、小規模な事業所であれば人件費増加分の多くを補填することが可能です。
石川県被災事業者賃上げ支援金の概要
この支援金は、震災の傷跡が残る中で前向きに賃上げに取り組む事業者を、直接的な現金給付によってサポートするものです。一般的な補助金とは異なり、実際に支払った経費の一部を補填するのではなく、賃上げを行った人数に応じて決まった金額が支給される定額制を採用しています。そのため、使い道が限定されず、キャッシュフローの改善に直結するのが大きな魅力でしょう。
石川県内の最低賃金は令和7年10月から1,054円へと大幅に引き上げられました。この改定は労働者にとって喜ばしいことですが、雇用主側からすれば大きなコストアップ要因です。特に被災地では、資材の高騰や客足の減少に悩まされているケースも多く、自力だけで賃上げを継続するのは容易ではありません。県がこのような支援金を打ち出した背景には、賃上げをきっかけとした離職を防ぎ、地域経済の担い手を確保したいという強い願いが込められています。
支援金額(最大10名分まで)
最大 50 万円
受給の対象となる事業者の詳細な条件
まず確認したいのが、ご自身の事業所が支給対象に該当するかどうかです。この支援金を受け取るためには、石川県内に事業所を構える中小企業、小規模事業者、または個人事業主である必要があります。その上で、能登半島地震による直接的、あるいは間接的な被害を証明しなければなりません。具体的な判定基準を見ていきましょう。
被災判定と売上減少のハードル
申請にあたっては、県内の事業所において一部損壊以上の被災判定を受けていることが必須です。これは罹災証明書などで客観的に証明できる必要があります。さらに、地震発生後の任意の月において、売上高が震災前の同じ月と比較して3%以上減少していることが求められます。3%という数字は他の補助金に比べると比較的緩やかな基準と言えますが、客観的な比較が必要なため、帳簿類を正確に整理しておくことが大切です。
注意点
被災判定を受けていても、売上減少が証明できない場合は対象外となります。また、風俗営業等、一部の業種は支援の対象から除外されるため、事前に募集要領の除外規定を確認しておきましょう。
従業員の賃上げに関する4つの必須要件
事業者の条件を満たした次は、肝心の従業員に関する要件です。支援金の対象となる従業員1人ひとりが、以下のすべての条件をクリアしていなければなりません。単に給料を上げれば良いというわけではなく、対象となる賃金の範囲や引き上げ幅が細かく指定されています。
1つ目のポイントは、賃上げ前の賃金水準です。時給換算で984円から1,053円の範囲内に収まっている従業員が対象となります。これは、石川県の以前の最低賃金付近で働いている方の底上げを目的としているためですね。すでに高い給与を支払っている従業員をさらに昇給させても、この支援金の対象にはならないので注意してください。
2つ目は引き上げの幅です。令和7年4月1日から令和8年1月31日の間に、時給を70円以上引き上げる必要があります。一気に70円上げても良いですし、2段階に分けて合計70円に達するようにしても認められます。ただし、この計算には残業代や休日手当、通勤手当などの諸手当は含まず、基本給と職務手当などの所定内賃金で比較しなければなりません。
3つ目は労働時間に関する決まりです。週の所定労働時間が20時間以上である従業員が対象です。そのため、超短時間のパートタイマーの方は残念ながらカウントできません。そして4つ目は継続性です。賃上げ後の賃金水準を1年以上維持する見込みがあることが条件となります。支援金をもらった直後に時給を元に戻すといった行為は認められないというわけです。
ポイント
対象となるのは正規雇用だけでなく、パートやアルバイトといった非正規雇用の方も含みます。週20時間以上の契約であれば、積極的に申請を検討すべきです。1人あたり5万円の支給額は、70円の時給アップを約714時間分サポートする計算になります。
申請のステップと具体的な手続きの流れ
申請はオンラインまたは郵送で行うことができますが、不備なくスムーズに受理されるためには事前準備が欠かせません。大まかな流れを把握して、計画的に進めていきましょう。
対象従業員の選定と賃上げの実施
まずは要件を満たす従業員をリストアップし、就業規則や労働契約の変更手続きを行います。実際に給与明細に反映される形での賃上げが必要です。
必要書類の収集
罹災証明書や売上を証明する比較資料、賃上げ前後の賃金台帳、労働条件通知書などを準備します。特に賃上げの実績が分かる資料は審査の肝です。
専用サイトからのWEB申請
準備した資料を電子データ化し、石川県の申請フォームからアップロードします。郵送の場合は、追跡可能な特定記録郵便などを利用するのが安心です。
審査と交付決定
事務局による内容の精査が行われます。不備があれば修正の依頼が来ますので、迅速に対応することで入金までの期間を短縮できます。
支援金の受け取り
無事に審査を通過すると、指定した事業用口座へ支援金が振り込まれます。受領後も関係書類は大切に保管しておきましょう。
採択されやすいポイントと実務上のコツ
この支援金は予算の範囲内で支給されるため、条件を満たしていても申請が遅れると受け取れないリスクがゼロではありません。最も重要なのは、申請期間である令和8年2月28日を待たず、準備ができ次第早めに提出することです。特に年度末にかけては窓口の混雑も予想されます。
次に意識したいのが、賃上げ環境整備助成金との使い分けです。石川県では本支援金のほかに、ITシステム導入や研修費用を補助する『賃上げ環境整備助成金』も用意しています。支援金は人数に応じた直接給付ですが、助成金は生産性向上に向けた投資をサポートするものです。自社の状況に合わせて、両方の制度を賢く併用することが、真に強い経営基盤を作る近道となるでしょう。
また、書類不備を最小限に抑えることも採択への重要な要素です。時給計算の際、1ヶ月の平均所定労働時間を用いて正確に時給換算されているか、支給対象外の手当が含まれていないかなど、社労士や専門家にダブルチェックを依頼するのも有効な手段です。正しい計算根拠を添えて申請することで、事務局の審査もスムーズに進みます。
よくある質問
Q. 罹災証明書がまだ届いていないのですが、申請は可能ですか?
A. 原則として、被災を証明する書類の添付が必須となっています。自治体での発行状況を確認し、手元に揃ってから申請を行ってください。一部損壊以上の判定が確認できる書類が必要です。
Q. 1人につき70円以上の賃上げというのは、基本給だけで判断されますか?
A. 基本給に加えて、毎月決まって支払われる職務手当などの所定内賃金を含めて計算します。一方で、時間外手当や通勤手当、賞与、結婚手当などの臨時的な給与は含みませんのでご注意ください。
Q. 過去に行った賃上げについても遡って対象になりますか?
A. 令和7年4月1日以降に実施された賃上げであれば対象に含まれます。ただし、それ以前の実施分については対象外となりますので、実施時期を今一度ご確認ください。
Q. パート従業員が複数名いますが、合算して10名まで申請できますか?
A. はい、可能です。各従業員が週20時間以上の所定労働時間であり、その他の賃上げ要件を満たしていれば、正社員とパートの区別なく合計10名分まで合算して申請いただけます。
Q. 売上減少の3%比較は、どの時期を比べれば良いのでしょうか?
A. 令和6年1月の能登半島地震以降の任意の月と、震災前の同じ月を比較します。例えば、令和7年5月の売上を令和5年5月の売上と比較し、3%以上減少していれば要件を満たします。
まとめ
石川県被災事業者賃上げ支援金は、能登半島地震という未曾有の困難に直面しながらも、地域に根を張り雇用を守り続けようとする経営者への力強いエールと言える制度です。1人5万円という金額は、一見小さく見えるかもしれませんが、複数人の賃上げを検討している事業者にとっては非常に頼もしい原資となります。申請期限である令和8年2月末までに余裕を持って手続きを完了させ、この支援金を人材確保と事業継続の足がかりとして活用してください。もし書類作成や要件の判断に迷うことがあれば、商工会議所や専門家のアドバイスを受けることも検討しましょう。一歩踏み出すその決断が、石川県の復興と自社の未来を明るく照らすはずです。
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