東京都内で非正規雇用の方を正社員へ転換する際、国の助成金に加えて独自に支給されるのが『東京都正規雇用等転換安定化支援助成金』です。この制度は、単に雇用形態を変えるだけでなく、転換した社員が長く定着するための仕組み作りを支援してくれます。最大116万円という大きな金額を受け取るためには、3ヶ月間の『支援期間』における丁寧な取り組みが欠かせません。この記事では、申請のポイントから具体的な手続きまで、実務に役立つ情報を網羅して解説します。
この助成金の要点
国のキャリアアップ助成金(正社員化コース)の決定を受けていることが大前提です。3ヶ月間の支援期間中に、3年間の指導育成計画の作成やメンターによる面談を実施する必要があります。退職金制度や結婚・育児支援、賃上げといった取り組みを行うことで、支給額が大幅に加算される仕組みです。
助成金の概要と支給金額の内訳
この助成金は、東京都内の事業所で働く方を正社員へと転換し、その後の定着を促すために設けられました。支給額は対象となる労働者の人数によって決まる『基本分』と、会社の制度をより手厚くした際に受け取れる『加算分』の2階建て構造です。
基本となる助成金額(定額分)
まず、正社員への転換を完了した人数に応じて、以下の金額が支給されます。1つの年度につき、1つの事業所あたり3回まで、合計で3名分(60万円)を上限に申請が可能です。
| 対象労働者の人数 | 助成金額 |
|---|---|
| 1名 | 20万円 |
| 2名 | 40万円 |
| 3名以上 | 60万円 |
さらに上乗せされる3つの加算制度
基本分に加えて、会社の福利厚生や待遇を改善することで以下の加算を受けられます。これらを組み合わせることで、最大116万円の受給が見えてきます。
1. 退職金制度整備加算(10万円):新たに退職金規定を設けたり、中退共(中小企業退職金共済)に加入したりした場合に支給されます。
2. 結婚・育児支援制度整備加算(10万円):結婚祝い金や、法定を上回る育児休暇制度、一時金制度などを新設し、就業規則を届け出た場合に適用されます。
3. 賃上げ加算(最大36万円):対象者の時間単価を60円以上アップさせた場合、1名につき12万円、最大3名まで加算されます。
モデルケース:3名を正社員化し、全加算を適用した場合
116万円
対象となる企業の条件と前提ルール
誰でも申請できるわけではなく、いくつかのハードルがあります。最も重要なのは、国の『キャリアアップ助成金』との連動です。
必須となる3つのクリア基準
第一に、東京労働局から国のキャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給決定を受けていなければなりません。国の決定通知書が届いてから、都への申請が可能になるという流れです。次に、対象となる労働者が、都内の事業所で継続して勤務していることが求められます。最後に、会社が中小企業であることも条件です。大企業は対象外となるため、自社の資本金や従業員数が中小企業の定義に当てはまるか事前に確認しておきましょう。
注意点
すでに東京都の別の正規雇用化支援を受けている労働者は対象にできません。また、過去に同じ労働者でこの助成金を受け取っている場合も二重の受給は不可能です。提出書類の整合性が厳しくチェックされるため、国の申請時に出した書類の控えを必ず保管しておいてください。
受給までに必要な具体的なアクション
この助成金の最大の特徴は、申請後に3ヶ月間の『支援期間』があることです。この期間中に、会社側は社員のためにいくつかの義務を果たさなければなりません。
具体的には、まず3年間にわたる『指導育成計画書』を作成します。どのようなスキルを身につけさせ、将来どのような役割を担ってもらうかを可視化する作業です。そして、社内から『指導育成者(メンター)』を選任します。メンターは支援期間中に少なくとも3回、別々の日に面談を行い、その内容を報告書にまとめます。さらに、計画に基づいた研修も実施しなければなりません。これらは定型的な作業に見えますが、社員の定着率を向上させるための実効性ある取り組みとして評価されます。
ポイント
メンターは対象者の直属の上司でなくても構いません。むしろ、部署の異なる先輩などが担当することで、本音を引き出しやすくなるメリットもあります。3回の面談を通じて、仕事上の悩みやキャリアへの不安を解消してあげることが、実質的な離職防止につながります。
申請から受給までの5ステップ
手続きは煩雑に見えますが、一つひとつの工程を確実に進めれば難しいことはありません。基本的な流れを5つのステップで整理しました。
国の助成金の決定通知を受ける
まずは東京労働局からキャリアアップ助成金の支給決定通知書を受け取ります。これが都への申請の『チケット』になります。
東京都への交付申請(電子または郵送)
Jグランツなどの電子申請システム、または郵送で交付申請を行います。各回ごとに締め切りが設けられているため、スケジュール確認が必須です。
3ヶ月間の支援を実施する
交付決定後に設定される3ヶ月間の支援期間中に、育成計画の作成、3回のメンター指導、研修を実施します。加算を狙う場合はこの期間中に制度整備も行います。
実績報告書の提出
支援期間が終わったら、実施した内容を報告書として提出します。面談の記録や研修の実施状況、賃上げ後の給与明細などが必要になります。
確定通知と入金
東京都の審査を通過すれば額の確定通知が届き、指定した口座に助成金が振り込まれます。
採択されやすい書類作成のコツ
行政の助成金全般に言えることですが、書類の『一貫性』が何より大切です。育成計画書で掲げた課題に対し、研修の内容が適切か、メンターの指導でその課題に触れられているか、といった点がチェックされます。
ありがちなミスとして、メンターの面談記録が短すぎたり、毎回同じ内容だったりするケースが挙げられます。社員一人ひとりの状況に合わせて、具体的にどのようなアドバイスをしたかを記録に残してください。また、電子申請(Jグランツ)を利用する場合は、GビズIDプライムのアカウント取得に数週間かかることもあるため、余裕を持った準備が不可欠です。
よくある質問
Q. 国の助成金の申請前ですが、都の助成金を先に予約できますか?
A. 残念ながら予約はできません。まず東京労働局からキャリアアップ助成金の支給決定通知書を受け取ってから、その通知に基づいて都への交付申請を行うという順番が決まっています。
Q. メンター(指導役)は外部のコンサルタントでも可能ですか?
A. 原則として、社内の従業員や役員から選任する必要があります。対象となる方の日常的な働きぶりを把握し、継続的な指導を行える立場の方がふさわしいとされています。
Q. 加算のために退職金制度を導入したいのですが、中退共への加入だけで十分ですか?
A. はい、中退共(中小企業退職金共済制度)への加入も加算の対象に含まれます。ただし、支援期間中に新たに加入手続きを行い、その証明書を提出することが条件です。以前から加入している場合は対象外となります。
Q. 支援期間中に正社員化した方が辞めてしまった場合はどうなりますか?
A. 支援期間の末日まで在職し、かつ都内事務所で勤務していることが支給の条件です。途中で退職した場合は、その方についての助成金は受け取れません。ただし、複数名申請している場合は、在職している方の分については審査が継続されます。
Q. 賃上げ加算の『60円以上の引き上げ』は、手当を含めても良いですか?
A. 原則として、基本給や定額的に支払われる手当による時間単価の引き上げが対象となります。残業代や通勤手当などの変動する手当は含まれません。東京都の最低賃金を60円以上上回っていることも必要です。
まとめ
東京都の正規雇用等転換安定化支援助成金は、国の制度に上乗せして大きな資金を得られるだけでなく、社内の育成体制を整える絶好のチャンスです。3ヶ月間の支援期間におけるメンター面談や計画策定は、一見手間に感じますが、これこそが社員の帰属意識を高める重要なプロセスになります。最大116万円というメリットを活かしながら、福利厚生を充実させて『選ばれる会社』へのステップアップに活用してみてはいかがでしょうか。まずは国の支給決定通知書が届いたら、迷わず都の申請スケジュールを確認することをお勧めします。
※本記事の情報は2025年1月時点の公式情報を基に作成しています。年度ごとの要綱変更や予算上限による受付終了などの可能性があるため、最新情報は東京都産業労働局の公式サイトや手引きを必ずご確認ください。