介護現場で働く皆様にとって、利用者の状態が良くなることは何よりの喜びですが、経営の視点では『要介護度が下がると報酬も下がる』という矛盾した現実に直面することもありました。東京都ではこうした課題を解消し、自立支援に積極的に取り組む事業所を後押しするため、独自の報奨金制度を用意しています。令和7年度も継続して実施されるこの事業は、ADLの維持や改善を実現した事業所に対して最大40万円を支給するもので、現場の努力をしっかりと評価してくれる貴重な仕組みです。
この補助金の要点
東京都内の介護事業所が対象で、ADL維持等加算を算定していることが基本条件となります。基礎分として20万円が支給され、さらに利用者の要介護度が改善または維持された実績に応じて最大20万円の加算が受けられます。
要介護度等改善促進事業の全体像と支給額の詳細
この事業は、科学的根拠に基づいた『科学的介護』の普及と、高齢者の重度化防止を目指して東京都が独自に立ち上げたものです。単にケアを行うだけでなく、リハビリテーションや栄養管理を工夫して、利用者の生活動作を向上させた事業所を金銭的にバックアップしてくれます。支給される報奨金は二段構えの構成になっており、まずはベースとなる『基礎分』、そして実績に基づく『加算分』の合計で決まります。
具体的な金額に目を向けると、基礎分として一律20万円が設定されています。これを受給するためには、基準日となる4月1日時点でADL維持等加算(I)または(II)を算定している必要があります。つまり、日頃からLIFE(科学的介護情報システム)を活用し、アウトカム評価に取り組んでいる事業所であれば、比較的スムーズに条件をクリアできるでしょう。
さらに注目すべきは実績に応じた上乗せ分です。基準日から翌年1月までの期間に、利用者の要介護度が改善した場合には20万円、維持された場合には10万円が加算されます。基礎分と合わせると最大で合計40万円が事業所に支払われる計算になります。介護報酬の減額分を補填する性質もあり、経営の安定化を図りながら質の高いケアを追求できる環境作りを助けてくれます。
補助上限額(基礎分+加算分最大)
400,000円
対象となる事業所とサービスの種類
東京都内に所在する民間事業所が広く対象となりますが、地方公共団体が設置した施設は含まれない点に注意が必要です。対象となるサービス区分は多岐にわたり、通所介護や地域密着型通所介護といったデイサービス系から、特別養護老人ホームや特定施設入居者生活介護などの入居系まで網羅されています。認知症対応型の通所介護も含まれるため、専門的なケアを提供している事業所にも門戸が開かれています。
要件の肝となるのは、介護報酬における『ADL維持等加算』の算定状況です。この加算は、一定期間内の利用者のADL(日常生活動作)の変化を評価し、維持や改善が見られた場合に算定できるものです。東京都の報奨金はこの加算を算定していることを前提としているため、まずは国の報酬体系における評価を確立させておくことがスタートラインになります。申請にあたっては、年度の途中で加算を取り下げていないか、あるいは基準日時点で有効に算定されているかを事前に台帳などで確認しておきましょう。
| 区分 | 支給要件の詳細 | 金額 |
|---|---|---|
| 基礎分 | 4月1日時点でADL維持等加算を算定していること | 200,000円 |
| 加算分(改善) | 要介護度変化値の合計がゼロを下回る実績 | 200,000円 |
| 加算分(維持) | 要介護度変化値が経年変化値の合計以下である実績 | 100,000円 |
報奨金を受け取るまでの具体的な5ステップ
申請手続きはそれほど複雑ではありませんが、実績の判定期間が長いため、計画的に進める必要があります。令和7年度分のスケジュールに合わせて、流れを整理しました。
加算の算定状況と基準日の確認
4月1日時点で対象の加算を算定しているか確認し、対象となる利用者のリストを把握します。
要介護度の変化データの集計
4月から1月までの期間に区分変更や更新が行われた利用者の度数変化を、都の係数に基づいて算出します。
申請書類の作成と提出
2026年1月5日から1月30日の申請期間内に、東京都の専用窓口へ必要書類を提出します。
審査と交付決定通知の受領
提出された実績データに基づき東京都が審査を行い、要件を満たしていれば決定通知が届きます。
報奨金の振込確認
確定払により指定の口座へ報奨金が振り込まれます。実績に応じた加算分もここで反映されます。
採択率を高める実績管理と計算のコツ
この制度は競争試験ではないため、要件を満たしていれば原則として支給されます。しかし、加算分を狙うには計算ルールを正確に理解しておく必要があります。要介護度の変化は、自立や要支援1を『0』、要介護5を『5』として数値化し、その差分で判定します。ここで重要なのは、単に今の介護度を見るだけでなく、前回の認定期間からどれだけ経過したかを加味する『経年変化値』という概念です。
一般的に、高齢者は加齢とともに要介護度が重くなる傾向にあるため、東京都のルールでは1年あたり0.1程度の自然な重度化を織り込んで計算してくれます。つまり、数値上の介護度がわずかに上がってしまったとしても、それが統計的な経年劣化の範囲内であれば『維持』として評価され、10万円の加算対象になり得るのです。このあたりのシミュレーションを事前に行っておくことで、申請時の期待値のズレを防ぐことができます。
ポイント
実績判定の対象者には、要介護度が改善した結果として期間内に退所された方も含まれます。こうしたポジティブな結果を逃さずカウントすることが、満額受給への近道です。
よくある質問:疑問を解消して確実に申請へ
Q. 複数の事業所を運営していますが、法人単位の申請ですか?
A. 事業所(事業所番号)ごとの申請となります。各拠点でADL維持等加算を算定していれば、拠点ごとに報奨金を受け取ることが可能です。
Q. 年度途中で事業を開始した場合は対象になりますか?
A. 基準日である4月1日時点で対象サービスを提供し、かつ加算を算定している必要があります。4月2日以降に新規開設した事業所などは、残念ながら当該年度の対象にはなりません。
Q. 改善の実績が出なかった場合、基礎分ももらえないのでしょうか?
A. いいえ、改善や維持の実績に関わらず、加算を算定しているという事実があれば基礎分の20万円は支給されます。実績分はあくまでプラスアルファの評価です。
Q. 申請に必要な証拠書類は何年保存すればよいですか?
A. 交付決定日の属する年度の終了後、5年間の保存義務があります。後日、東京都からの調査が入る可能性もあるため、適切に整理しておきましょう。
Q. 暴力団排除に関する誓約は必要ですか?
A. はい、東京都の規定に基づき、暴力団関係者の排除が条件となります。申請時に誓約事項を確認し、必要書類を添えて提出することになります。
注意点
虚偽の申請や不正な手段で報奨金を受け取った場合、年10.95パーセントの違約加算金を含む返還を命じられることがあります。データの集計ミスがないよう、二重チェックを行う体制を整えてください。
まとめ
東京都の要介護度等改善促進事業は、現場の献身的なケアが正当に評価される仕組みです。最大40万円という金額は、スタッフへの研修費用やリハビリ備品の購入など、さらなるサービス向上への原動力として活用できます。申請期間は2026年1月の1ヶ月間と限られているため、日々の介護記録やLIFEへのデータ入力を丁寧に行いつつ、早めの準備を心がけましょう。自立支援の輪を広げることは、利用者本人だけでなく、事業所のブランド価値向上にもつながるはずです。
※本記事の情報は執筆時点のものです。令和7年度の実施要綱や詳細な事務手続きについては、必ず東京都福祉局の公式サイトや公式公募ページで最新情報をご確認ください。