長年築き上げてきた事業を次世代に引き継ぐ際、多くの経営者が直面するのが資金的なハードルです。株式の価値を正しく算定したり、信頼できる後継者を探したり、あるいはM&Aによる第三者への譲渡を検討したりと、やるべきことは山積みですが、そのすべてに専門家への費用が発生します。東京都の事業承継支援助成金や国の事業承継・M&A補助金は、こうした承継にまつわるコストを大幅に軽減してくれる心強い味方です。この記事では、都内の中小企業が賢くこれらの制度を活用し、円滑なバトンタッチを実現するためのポイントを詳しく解説していきます。
この補助金の要点
東京都の助成金は最大200万円、国の補助金は最大1000万円を超える大規模な支援を受けられます。事業承継に関わる専門家への委託費やM&Aの手数料、さらには承継後の設備投資まで幅広くカバーしているのが特徴です。特に小規模企業者の場合は、補助率が引き上げられる優遇措置も用意されています。
東京都と国の支援制度をどう使い分けるべきか
現在、事業承継を検討している東京都の中小企業が注目すべき支援策は、大きく分けて2種類あります。一つは東京都中小企業振興公社が実施する’事業承継支援助成金’、もう一つは中小企業庁が主導する全国版の’事業承継・M&A補助金’です。これらは名前こそ似ていますが、支援の規模や対象となる取り組みが異なります。どちらを選ぶべきか判断するためには、まず自分の会社の状況を整理することが欠かせません。
東京都の助成金は、より地域に密着した小規模な承継や、承継前の準備段階に強い傾向があります。助成限度額は200万円と控えめですが、小規模企業者が自社の企業価値算定などを行う場合には、経費の10/10、つまり全額が助成されるケースがあるのが大きな魅力です。一方、国の補助金は最大1000万円以上に達することもあり、承継を機に大規模な設備投資を行いたい場合や、本格的なM&Aによる事業再編を目指す場合に適しています。
東京都の助成金でできること
東京都の制度では、4つのタイプに応じた支援が用意されています。後継者が決まっていない場合のM&Aに向けた取り組みから、すでに後継者が決まっている場合の譲渡準備、さらには他社の事業を譲り受ける際の費用までカバーされます。特に注目したいのは、基準日から10年以内に承継を予定していれば対象になり得る点です。まだ少し先の話だと感じている段階でも、専門家に相談して自社の健康診断を行うための費用として活用できます。
東京都助成金の助成上限額
200万円
事業承継・M&A補助金の4つの枠組み
全国規模で展開されている’事業承継・M&A補助金’は、その目的によって4つの申請枠に分かれています。それぞれの枠には独自の要件があり、自社のフェーズに合わせて最適なものを選ばなければなりません。ここで、それぞれの特徴を深掘りしてみましょう。
まず、’事業承継促進枠’は、親族内承継や従業員承継をきっかけに、新しい設備を導入したり販路を開拓したりする企業を支援するものです。例えば、古くなった工場の機械を新調したり、新しい店舗の内装を整えたりする費用が対象になります。単なる引き継ぎに留まらず、第二の創業として攻めの経営に転じたいと考えている後継者にとっては、非常に使い勝手の良い制度といえるでしょう。
次に、M&Aを検討しているなら’専門家活用枠’が欠かせません。M&Aには仲介手数料や弁護士・会計士によるデューデリエンス(精査)費用など、多額の専門家費用がかかります。この枠を使えば、買い手側でも売り手側でも、これらの委託費用の補助を受けることが可能です。特に売り手となる経営者にとっては、廃業という選択肢の前に、第三者にバトンを渡すための資金的な後ろ盾となります。
ポイント
一定の賃上げを行うことを約束すると、補助上限額がさらに引き上げられる仕組みがあります。例えば、通常800万円の枠が1000万円まで拡大されるなど、従業員の処遇改善とセットで取り組むことで、より手厚い支援を受けられます。
補助金の対象となる経費の具体例
補助金が出るからといって、あらゆる支払いが対象になるわけではありません。対象経費を正しく把握しておくことは、不採択を避け、確実に資金を受け取るための第一歩です。この補助金では、基本的に’事業承継やM&Aを完遂させるために直接必要な費用’が重視されます。
代表的な項目としては、外部の専門家へ支払う謝金や委託費が挙げられます。M&A仲介会社への着手金や成功報酬はもちろん、契約書をリーガルチェックしてもらう弁護士費用、さらには不動産の鑑定評価費用なども含まれます。また、承継を機に社内のシステムを一新する際のシステム利用料や、新しい事業を周知するための広告宣伝費、店舗の改修費なども幅広く認められる傾向にあります。
| 経費区分 | 具体的な対象項目の例 |
|---|---|
| 専門家委託費 | M&A仲介手数料、財務精査費用、企業価値算定、法律相談など |
| 設備投資・店舗改修 | 製造機械の購入、店舗のリフォーム、内装工事費、ITツール導入など |
| 広報・マーケティング | HP作成、チラシ制作、展示会出展、看板設置などのブランディング費用 |
| 廃業関連費用 | 在庫処分、店舗の原状回復、解体工事、移転費用(廃業枠のみ) |
注意点
交付決定を受ける前に契約や支払いをしてしまった経費は、原則として補助対象外となってしまいます。焦ってM&A業者と契約を結んだり、機械を発注したりする前に、必ず事務局からの許可が下りるタイミングを確認することが重要です。
申請から交付までの5つのステップ
補助金の申請は、単に書類を出して終わりではありません。事前の準備から後出しの報告まで、しっかりとした手順を踏む必要があります。ここでは、申請者が通るべき道のりを5つのステップで整理しました。
GビズIDプライムの取得
現在の補助金申請はオンライン化が進んでいます。Jグランツというシステムを使うために、法人共通の認証IDを事前に取得しておきましょう。これには2週間ほどかかることもあるため、真っ先に取り組むべき事項です。
事業計画書の作成
なぜこの承継が必要なのか、引き継ぎ後にどのように事業を発展させるのかを、具体的な数字を用いて説明します。専門家の力を借りながら、説得力のあるストーリーを練り上げることが採択への近道となります。
オンライン申請と審査
必要書類をすべて揃え、Jグランツから申請を行います。募集期間は限られているため、締め切り直前のシステム混雑を避けるようにしましょう。無事に採択されれば、’交付決定’という通知が届きます。
事業の実施と支払い
交付決定が下りて初めて、業者への発注や契約が可能になります。補助事業期間中にすべての作業を終え、支払いを完了させなければなりません。領収書や銀行の振込控えは、後の報告で必須となるため厳重に保管しておきましょう。
実績報告と入金
すべての支払いが終わったら、どのような成果があったかを報告します。事務局の検査を通過すると、ようやく補助金が口座に振り込まれます。補助金は後払いのため、まずは自社で資金を用意しておく必要がある点に注意してください。
採択率を上げるための申請のコツ
事業承継の補助金は、ただ出せば通るというものではありません。審査員が’この会社なら次世代に引き継ぐ価値があり、将来性が期待できる’と確信できる内容にする必要があります。そのためには、単に過去の栄光を語るのではなく、承継後の未来予測を具体的に示すことが欠かせません。
採択されやすい計画書の共通点は、地域の課題解決や雇用維持に対する姿勢が明確であることです。例えば、’自社がなくなることで地域のサプライチェーンにどのような悪影響が出るか’といった現状分析と、’承継後に新しいITツールを導入して生産性を何パーセント引き上げる’といった具体的な改善策が結びついていると高く評価されます。また、中小企業診断士などの外部専門家に計画書の添削を依頼するのも一つの手です。客観的な視点が入ることで、論理の飛躍を防ぎ、より説得力のある書類に仕上がります。
よくある質問(FAQ)
Q. まだ後継者が決まっていない段階でも申請できますか?
A. はい、申請可能です。東京都の助成金には’後継者未定’の企業を対象としたタイプがあり、第三者への譲渡(M&A)に向けた準備費用として活用できます。また、国の専門家活用枠も同様に、買い手・売り手を探している段階で利用できます。
Q. 補助金はいつもらえますか?
A. 補助金は完全な後払い方式です。事業が完了し、すべての支払いを証明する書類を提出して検査を受けた後に入金されます。そのため、申請した費用の全額を一度は自社で立て替える必要がありますので、資金繰りには十分注意しましょう。
Q. M&Aの仲介会社に支払う成功報酬は対象になりますか?
A. 対象になります。ただし、中小企業庁が定める’M&A支援機関登録制度’に登録されている事業者に支払う費用である必要があります。登録されていない業者への支払いは補助対象外となるため、契約前に必ず確認してください。
Q. 個人事業主でも申請できますか?
A. 多くの場合、可能です。事業承継補助金は中小企業だけでなく、小規模事業者や個人事業主も対象に含まれています。ただし、事業を継続して引き継ぐことが前提ですので、詳細な要件については最新の公募要領を確認することをお勧めします。
Q. 以前この補助金をもらったことがありますが、再度申請できますか?
A. 原則として、同じ事業内容での再申請は認められません。ただし、別の事業承継案件であったり、異なる目的での申請であれば認められる可能性もあります。公募回によってルールが変わることもあるため、事務局へ直接問い合わせるのが確実です。
まとめ
事業承継は、単なる’終わり’ではなく、新しい歴史の’始まり’です。東京都の助成金や国の補助金を上手に活用すれば、資金的な不安を軽減し、前向きな気持ちで引き継ぎに専念できます。まずはGビズIDの取得から始め、自社の承継にどの枠が適しているかを検討してみてください。専門家の力を借りつつ早めに準備を進めることが、円滑な事業承継を成功させる最大の鍵となります。次回の公募開始を見逃さないよう、公式サイトを定期的にチェックすることもお忘れなく。
※本記事の情報は執筆時点のものです。令和8年度以降の募集については、東京都中小企業振興公社や中小企業庁の公式サイトにて最新の情報を必ずご確認ください。