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傷病手当金の会社側対応|事業主証明の書き方と人事・労務の実務

健康保険の被保険者を雇用する事業主、および人事・総務・労務・給与計算の担当者

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詳細解説

従業員が私傷病で長期に休むと、会社側には「給与をどう扱うか」「社会保険料を誰がどう回収するか」「傷病手当金支給申請書の事業主証明欄に何を書くか」という三つの実務が同時に発生します。なかでも差し戻しの引き金になりやすいのが事業主証明欄で、勤務状況欄に有給休暇や公休まで「○」を付けてしまう、証明日を申請期間の途中の日付にしてしまう、といった誤りが典型です。

本記事は本人向けの記入方法ではなく、会社の人事・総務・労務担当者が休職の発生から復職・退職までに何をどの順で処理するかを、健康保険法(大正十一年法律第七十号)の条文と全国健康保険協会(協会けんぽ)の記入見本に当たって整理したものです。待期3日間の数え方、有給休暇との先後関係、給与がゼロになる月の保険料徴収、労災との切り分け、退職日に出社させてはいけない理由まで、担当者が実際に従業員から聞かれる論点を順に扱います。

この記事の前提

  • 対象読者:中小企業の人事・総務・労務担当者、経営者、給与計算担当者
  • 対象年度:2026年(令和8年)8月時点の健康保険法・労災保険制度
  • 扱う論点:事業主証明欄/待期3日間/有給休暇との関係/社会保険料の徴収/労災との切り分け/支給期間の通算/退職後の継続給付/障害年金・出産手当金との調整/会社が使える助成金
  • 自治体差:健康保険は全国共通の制度で自治体差はありません。ただし加入先が健康保険組合の場合は申請書様式・提出先・付加給付が異なります
  • 最終確認日:2026年8月7日(協会けんぽ・厚生労働省・e-Gov法令検索の原典を確認)

担当者が押さえるべき5点

  1. 事業主証明欄の勤務状況欄は「出勤した日だけ○」。有給休暇・公休・欠勤は記入不要で、書き込むと差し戻しの原因になります。
  2. 待期3日間には有給休暇も公休日も含まれる。会社が気を利かせて「出勤扱い」にすると待期が完成せず、支給開始が遅れます。
  3. 休職中も社会保険料は発生する。免除されるのは産前産後休業と育児休業等だけで、私傷病休職は免除されません。
  4. 業務上・通勤による傷病は健康保険ではなく労災保険。両方を同時に受け取ることはできません。
  5. 退職日に挨拶で出社すると、退職後の継続給付が受けられなくなる。ここは会社側が事前に止める必要があります。

自社が使える雇用関係の助成金を先に把握しておくと、休職者の代替要員確保や復職後の短時間勤務の設計がしやすくなります。まずは3分で使える助成金を診断するところから始めると、後述する両立支援の制度設計と噛み合わせやすくなります。

4日目連続3日の待期を経た4日目から支給(健康保険法第99条第1項)
通算1年6か月支給を始めた日から通算(令和4年1月1日施行)
3分の2直近12か月の標準報酬月額平均の30分の1×2/3(同条第2項)

休職発生から復職までに会社がやること(期限つき一覧)

傷病手当金は本人(被保険者)が保険者に請求する給付であり、会社が代理で受給するものではありません。それでも会社の処理が止まると本人の入金が止まります。実務では次の順序で動かすと事故が起きません。

タイミング会社がやること担当根拠資料
休業の申出を受けた日業務上か業務外かを最初に切り分ける。業務上・通勤災害なら健康保険ではなく労災の手続に入る労務・安全衛生協会けんぽ「傷病手当金」
休業1〜3日目連続して休めているかを勤怠で確認する。ここで出勤扱いにしない人事・勤怠健康保険法第99条第1項
休業4日目以降就業規則の休職発令、有給休暇の消化順序を本人と確認して記録に残す人事自社就業規則
最初の給与締日給与がゼロまたは大幅減になる月の社会保険料本人負担分の回収方法を通知する給与計算日本年金機構「保険料の免除等」
申請期間の経過後事業主記入用ページ(3ページ目)に勤務状況と報酬額を記入し、申請期間経過後の日付で証明する人事・給与計算協会けんぽ京都支部「事業主証明欄を記入する際の注意点」
証明後すみやかに医師の意見(療養担当者記入用)が揃っているか確認のうえ本人または会社経由で提出人事協会けんぽ「傷病手当金支給申請書」
復職判断時主治医と産業医の意見を突き合わせ、短時間勤務や配置転換の可否を決める人事・産業保健厚生労働省「治療と仕事の両立について」

申請は1か月ごとに区切るのが実務的

傷病手当金は療養が終わるまで待つ必要はなく、給与の締め日に合わせて1か月単位で申請できます。長期休職が見込まれるときほど、初回を早く出して支給の可否と金額を確定させたほうが、本人の生活設計も会社の給与処理も安定します。

欠員の穴埋めや復職後の働き方の組み替えには、雇用関係の助成金が絡んできます。全体像は雇用・人材育成の助成金まとめ2026で押さえたうえで、育児・介護との両立が絡むケースは両立支援等助成金 令和8年度の全6コースを、分野横断で探すときは人材育成・雇用のカテゴリ医療・福祉のカテゴリを起点にすると早く見つかります。

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向いている人

  • 社内に社会保険の実務経験者がいない
  • 長期休職の対応が初めてで、証明欄の書き方に自信がない
  • 業務上か業務外かの判断に迷っている

向いていない人

  • すでに顧問社労士がいて随時相談できる
  • 休職者が複数いて継続的な労務管理体制ごと外注したい

事業主証明欄の記入や労災との切り分けは、判断を誤ると本人の入金が数か月単位で遅れます。とはいえ年間の顧問契約まで結ぶ規模ではない、という中小企業は少なくありません。ココナラなら顧問契約なしで社労士・行政書士にスポット相談でき、1件分の質問から料金と実績を見比べて依頼できます。証明欄の記入例を1回チェックしてもらうだけでも、差し戻しの往復を減らせます。

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事業主証明欄(申請書3ページ目)の正しい書き方

傷病手当金支給申請書のうち、会社が記入するのは事業主記入用の1ページです。ここには「勤務状況欄」と「賃金支給状況欄」の二つがあり、差し戻しはほぼこの二か所に集中します。協会けんぽ京都支部が公開している記入見本は、実際の申請書レイアウトに沿って誤りやすい箇所を示しており、担当者が最初に読むべき資料です。

勤務状況欄は「出勤した日だけ○」

記入見本には「申請書2ページ目の『①申請期間』の内、出勤した日に「○」をご記入ください」「早退の場合は『早』を記入してください」「有給休暇、公休、欠勤の場合、記入は不要です」と明記されています(協会けんぽ京都支部の記入見本)。つまり「休んだ日を塗る欄」ではなく「働いた日だけを示す欄」です。ここを取り違えて有給休暇の日にも○を付けると、保険者からは就労した日と読まれ、待期未成立や支給日数の減少として差し戻しになります。

申請期間中にまったく出勤日がない場合でも、申請期間の年と月は記入する必要があります。空欄のまま提出して返ってくるのも典型的な差し戻しパターンです。

賃金支給状況欄は「出勤していない日に払った報酬」だけ

賃金支給状況欄に書くのは、申請期間のうち出勤していない日に対して支給した報酬です。記入見本では、該当するものとして有給休暇の賃金、出勤の有無にかかわらず支給している手当(通勤手当・扶養手当・住宅手当等)が挙げられ、逆に残業手当等の出勤した日に対して支給した報酬や、見舞金等の一時的に支給したものは記入不要とされています。

給与計算担当者がつまずく3点

  • 月給制で欠勤控除をしていない場合は、日ごとではなく賃金締日を単位として支給内容を記載する
  • 6か月定期代のように複数月を計算期間とする手当は、欠勤控除しないなら、その期間全体について支給内容を記載する
  • 給与・手当の支給がない賃金計算期間は記載不要(0円と書く必要はない)

また、証明日は申請期間が経過した後の日付でなければなりません。「先に証明をもらっておきたい」と申請期間の途中で日付を入れると、期間中の出勤や報酬を証明できていないことになり、差し戻しの対象になります。事業主印の押印は省略可能です。

差し戻しになるNG記入例と正しい書き方

場面差し戻しになるNG記入正しい書き方根拠資料
勤務状況欄有給休暇を取得した日にも「○」を付ける有給休暇・公休・欠勤は記入しない。出勤した日だけ「○」協会けんぽ京都支部 記入見本
勤務状況欄出勤日がないので年月ごと空欄にする出勤日等がない場合も申請期間の年と月は記入する同上
勤務状況欄早退した日を欠勤扱いで空欄にする早退した日には「早」を記入する同上
賃金支給状況欄出勤日に対する残業手当まで記入する出勤した日に対して支給した報酬は記入不要同上
賃金支給状況欄支給がない期間に「0円」と記入する支給がない賃金計算期間は記載しない同上
証明日申請期間の途中の日付で証明する申請期間が経過した後の日付で証明する同上
添付書類労災を請求中のまま健康保険へ出す労災の支給決定通知書の写し等を添えて保険者の指示に従う協会けんぽ 申請書ページ

本人が記入する1〜2ページ目の書き方や支給額の計算例は、傷病手当金 申請書の書き方(記入例付き)で詳しく扱っています。本人から質問が来たときは、この記事ではなくそちらを案内すると説明が早く済みます。

待期3日間を会社が壊してしまう典型パターン

健康保険法第99条第1項は「療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から」支給すると定めています。この3日間が待期です。

協会けんぽは「待期3日間の考え方は会社を休んだ日が連続して3日間なければ成立しません。連続して2日間会社を休んだ後、3日目に仕事を行った場合には、『待期3日間』は成立しません」と説明しています。そして重要なのが次の一文です。「待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません」

会社の善意が待期を壊す

「体調が悪いなら半日で上がっていい」と早退させ、その日を出勤扱いにする。あるいは休んだ3日目に自宅から一時間だけリモートで作業させる。いずれも労務に服した日として扱われ、待期がリセットされます。休業開始の連絡を受けたら、まず「連続3日は一切就労させない」と現場に伝えるのが担当者の最初の仕事です。

読者

金曜に発症して土日を挟んだ場合、待期はいつ完成しますか。会社は土日が休みです。

確認対象・制度の位置づけ

対象地域(全国)

目的
人材育成・雇用
対象地域
全国
対象者
健康保険の被保険者を雇用する事業主、および人事・総務・労務・給与計算の担当者
確認した過去制度の金額

対象年度と制度の状態は一次情報をご確認ください。

専門家

金曜に労務不能となって休み、土日も療養で就労していなければ、金・土・日の3日で待期が完成します。協会けんぽが「公休日も含まれる」としているとおり、土日が会社の休日であることは妨げになりません。月曜以降、労務不能で給与が出ない日から支給対象になります。

有給休暇は先に使うべきか、同時に使うべきか

担当者が必ず聞かれる論点です。判断の軸は健康保険法第108条第1項にあります。同項は「疾病にかかり、又は負傷した場合において報酬の全部又は一部を受けることができる者に対しては、これを受けることができる期間は、傷病手当金を支給しない」と定め、ただし報酬額が第99条第2項で算定される額より少ないときはその差額を支給するとしています。

つまり、有給休暇を使えば賃金という報酬が出るため、その日は傷病手当金が不支給になるか、傷病手当金の額との差額だけになります。傷病手当金は標準報酬日額の3分の2ですから、通常は有給を使った日のほうが本人の手取りは多いことになります。

実務での組み立て方

  1. 待期3日間に有給を充てる。待期は公休日・有給も含まれるうえ、有給なら賃金が出るので本人の減収を抑えられます。
  2. 待期完成後は本人の希望で選ぶ。残日数に余裕があり短期で復職できそうなら有給、長期化が確実なら傷病手当金に切り替えて有給を復職後の通院用に温存する、という設計が現実的です。
  3. 会社が一方的に有給消化を命じない。年次有給休暇は本人の請求によって与えるものです。休職と有給の関係は就業規則に書き、運用を統一しておきます。

復職後に短時間勤務へ移行する場合は、労働時間の延長や処遇改善を支援する制度が使えることがあります。たとえばキャリアアップ助成金 短時間労働者労働時間延長支援コースキャリアアップ助成金 正社員化コースは、休職明けの働き方を組み替える局面で検討対象になります。休職・復職の局面で担当者が併読しておくとよい制度を、先にまとめて挙げておきます。

給与がゼロの月、社会保険料はどう徴収するか

ここが給与計算のいちばんの詰まりどころです。私傷病による休職では社会保険料は免除されません。健康保険法が保険料を徴収しないと定めているのは育児休業等(第159条)と産前産後休業の期間であり、日本年金機構が案内する免除制度も産前産後休業・育児休業等に限られています。私傷病の休職はこのどちらにも当たりません。

一方で、給与がゼロなら本人負担分を給与から控除できません。事業主は保険料の全額を納付する義務を負ったまま、本人負担分を別途回収する必要があります。実務では次の3方式のいずれかを就業規則または個別の合意で決めておきます。

回収方式やり方会社側のリスク向いているケース
本人振込毎月、本人負担分を会社の口座へ振り込んでもらう振込忘れ・滞納の督促が発生する休職が数か月以上に及ぶ見込み
会社立替+復職後精算会社が立て替え、復職後の給与から分割控除する復職せず退職すると回収不能になりうる短期で復職見込みが立っている
賞与・退職金での精算賞与支給時または退職時にまとめて精算する賞与が支給されないと回収できない賞与制度が安定して運用されている
傷病手当金からの相殺本人の同意なく給付金から差し引く不可。傷病手当金は本人に支給される給付で、会社が直接差し引く仕組みはない該当なし

立替の口約束はトラブルの元

「復職したら返してもらう」を口頭で済ませると、退職時に返還を巡って争いになります。立替額・返済方法・退職時の取扱いを書面で交わし、賃金からの控除には労使協定と本人の同意を確認してください。

健康保険か労災保険か、最初に切り分ける

傷病手当金は業務外の事由による病気やケガが対象です。協会けんぽは「業務上・通勤災害によるもの(労災保険の給付対象)や病気と見なされないもの(美容整形など)は支給対象外」と明示しています。業務上・通勤災害であれば、給付は労災保険の休業(補償)等給付になります。

労災の休業(補償)等給付は、厚生労働省の説明によれば「休業1日につき、給付基礎日額の80%(休業(補償)等給付=60%+休業特別支給金=20%)が支給されます」。給付基礎日額は原則として労働基準法の平均賃金に相当する額で、「事故が発生した日(賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日)の直前3か月間にその労働者に対して支払われた金額の総額を、その期間の歴日数で割った、一日当たりの賃金額」です。

労災では待期3日間を会社が補償する

労災でも休業4日目からの給付です。ただし厚生労働省は、労災による休業1〜3日目について「労災保険から給付されないため、労働基準法で定める平均賃金の60%を事業主が直接労働者に支払う必要があります」としています。健康保険の待期とは会社の負担が根本的に異なる点に注意してください。労働災害で休業したときは、労働者死傷病報告の提出義務も別に発生します。

有給・労災・障害年金・出産手当金との整理

併存する事情傷病手当金の扱い差額支給の有無根拠資料
給与・手当などの報酬を受けられる(有給休暇を含む)その期間は不支給報酬額が傷病手当金の額より少ないときは差額を支給健康保険法第108条第1項
業務上・通勤災害(労災保険の対象)健康保険の傷病手当金は対象外。労災の休業(補償)等給付へ同時受給は不可厚生労働省「休業(補償)等給付の計算方法」
同一の傷病で障害厚生年金を受けられる不支給障害年金の額(障害基礎年金がある場合は合算)が少ないときは差額を支給健康保険法第108条第3項
出産手当金が支給される期間その期間は傷病手当金を支給しない出産手当金の額が少ないときは差額を支給健康保険法第103条第1項

障害厚生年金の請求手続そのものは本人と医師の作業になりますが、初診日の確認で会社の在籍記録を求められることがあります。書類の勘所は障害年金 申請書と診断書の書き方にまとめています。高額な治療が続く従業員から医療費の相談を受けたときは、高額療養費の窓口・医療事務の実務対応ガイド2026年8月改定の自己負担限度額を併せて案内すると話が早くなります。

読者

通勤中の事故なのに本人が「労災にしたくない」と言っています。健康保険で処理してよいでしょうか。

専門家

本人の希望で選べるものではありません。通勤災害は労災保険の対象で、健康保険の傷病手当金は業務外の傷病に限られます。健康保険で処理してしまうと、後から保険者に医療費の返還を求められることがあります。判断に迷う事案は労働基準監督署に確認し、記録を残してください。

関連する補助金・助成金

支給期間は「通算」1年6か月。数え方が変わっている

厚生労働省は「令和4年1月1日から施行されます」として、傷病手当金の支給期間の通算化を告知しています。改正後は「支給開始日から通算して1年6か月に達する日まで対象」となり、「支給期間中に途中で就労するなど、傷病手当金が支給されない期間がある場合には、支給開始日から起算して1年6か月を超えても、繰り越して支給可能」です。健康保険法第99条第4項も「その支給を始めた日から通算して一年六月」と定めています。

実務上のインパクトは大きく、試し出勤や短期の復職で暦の1年6か月を食いつぶす心配がなくなりました。逆に会社側は、復職と再休職を繰り返す従業員について「支給済み日数が何日か」を管理する必要が出ています。給与台帳とは別に、支給決定通知の日数を累計する簡単な管理表を作っておくと、復職判断のタイミングを誤りません。

通算化の注意

通算されるのは同一の疾病または負傷およびこれにより発した疾病についてです。別の傷病で新たに労務不能になった場合は、待期の完成から改めて数えます。傷病名が変わったのか、同一傷病の再発なのかは医師の意見欄が判断材料になります。

退職日に出社させてはいけない理由

健康保険法第104条は、資格喪失後の継続給付を次のように定めています。「被保険者の資格を喪失した日の前日まで引き続き一年以上被保険者であった者であって、その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる」。

協会けんぽはこれを実務向けに、資格喪失日の前々日(退職日の前日)までに連続して3日以上休業し、資格喪失日の前日(退職日)も休業していること、と説明しています。ここから有名な落とし穴が生まれます。

最終出社日と退職日を混同しない

退職日に挨拶や私物の引き取りで出社し、労務に服してしまうと「資格喪失の際に傷病手当金の支給を受けている」状態でなくなり、退職後の継続給付を受けられなくなります。本人は善意で来社し、会社も善意で迎え入れて、数か月分の給付が消えるという事故が実際に起きています。休職中の従業員が退職するときは、人事から本人へ「退職日は出社不要。手続と返却物は郵送で対応する」と文書で伝えてください。

継続給付には「継続して1年以上の被保険者期間」も必要です。転職直後の従業員が休職に入った場合、在籍1年に満たない時点での退職は継続給付の対象になりません。被保険者期間には任意継続被保険者であった期間は算入されない点も、退職後の任意継続を検討する本人への説明で押さえておくべき箇所です。

申請でよくある不採択・落とし穴

差し戻しや不支給の原因は、医学的な判断より事務処理の初歩的なミスに偏っています。担当者が繰り返し踏む落とし穴を、発生順に並べます。

  1. 待期の途中で就労させた:連続3日が成立せず、支給開始が後ろにずれる。半日出勤やリモート作業も就労として扱われます。
  2. 勤務状況欄に有給休暇を書き込んだ:出勤日と読まれ、支給日数が削られる差し戻しの最頻出パターン。
  3. 証明日を申請期間中の日付にした:期間経過後でなければ証明できず、そのまま返送されます。
  4. 賃金支給状況欄に出勤日分の残業手当まで書いた:本来は不要な記入で、報酬額の調整計算が狂います。
  5. 医師の意見欄が申請期間をカバーしていない:療養担当者記入用の期間が申請期間より短いと、その差分は不採択になります。
  6. 労災か健保かの切り分けをせずに提出した:業務上の傷病を健康保険で請求すると、後から返還を求められます。
  7. 退職日に出社させた:資格喪失後の継続給付が受けられなくなり、取り返しがつきません。

差し戻しは往復2〜3週間の損失

申請書が返送されると、修正・再証明・再提出で2〜3週間は失われます。休職者にとっては生活費の入金が1か月遅れるということです。初回申請だけでも社内で二重チェックする体制を組むと、以降の不採択リスクが目に見えて下がります。注意点を一覧化した次のチェックリストを、提出前の確認に使ってください。

提出前チェックリスト

会社側が申請書を本人へ返す前に、次の項目をすべて確認してください。ひとつでも欠けると差し戻しの確率が上がります。

会社が使える関連制度と助成金の現在地

「傷病手当金の話が出たので、あわせて使える助成金はないか」と聞かれることがあります。ここは事実関係を正確に押さえておく必要があります。厚生労働省の両立支援等助成金には、私傷病(がん治療等)による休業を直接支援するコースは置かれていません。2026年8月時点で案内されているコースは、出生時両立支援コース、介護離職防止支援コース、育児休業等支援コース、育休中等業務代替支援コース、柔軟な働き方選択制度等支援コース、不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースです。廃止済みのコースを現存するものとして社内に説明しないよう注意してください。

治療と仕事の両立支援について会社が使える公的な支援は、助成金より無料の専門支援が中心です。厚生労働省は、都道府県の産業保健総合支援センターに治療と仕事の両立支援のための専門の相談員を配置し、啓発セミナー、研修、相談対応、個別訪問指導を実施していると案内しています。就業規則の両立支援制度づくりや主治医との情報連携の様式は、ここで無償の助言が受けられます。

団体経由産業保健活動推進助成金は事業主団体が申請主体

労働者健康安全機構の団体経由産業保健活動推進助成金は、事業主団体等が傘下の中小企業に産業保健サービスを提供する費用を助成する仕組みで、個別企業が直接申請するものではありません。令和8年度分は6月10日に受付を開始し、7月10日で交付申請の受付を終了しています。加入している業界団体や商工団体が実施主体になっていないか確認するのが現実的な使い方です。

休職者の欠員を残ったメンバーで吸収するために業務を組み替えるなら、設備投資と賃上げをセットで支援する制度や、教育訓練の費用を助成する制度が使えます。人材開発支援助成金 事業展開等リスキリング支援コース人材開発支援助成金 中高年齢者実習型訓練が候補になります。全国対象の制度をまとめて見たいときは全国の制度一覧から辿れます。

人事担当者からよくある質問

会社が本人に代わって傷病手当金を請求できますか。

請求権は被保険者本人にあります。会社は事業主記入用ページを証明し、提出を代行することはできますが、支給申請そのものを会社の権限で行うことはできません。振込先も原則として本人名義の口座です。

支給額はどう計算されますか。

健康保険法第99条第2項により、1日あたりの額は支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2です。標準報酬月額が定められている月が12か月に満たない場合は、その期間の平均額と、前年度9月30日の全被保険者の標準報酬月額の平均額を基礎とした額のうち、少ないほうを使って計算します。

休職期間中に賞与を支給したら傷病手当金は減りますか。

健康保険法第108条第1項が調整の対象とするのは、労務に服することができない期間について受けられる報酬です。賞与の性質と算定期間によって取扱いが変わるため、支給前に保険者へ確認するのが安全です。判断を誤ると後日返還の対象になります。

申請書はどのくらいの頻度で出すべきですか。

法令上の決まりはありませんが、給与の締め日に合わせて1か月ごとに区切るのが一般的です。事業主証明は申請期間の経過後に行う必要があるため、締め日から証明までの社内リードタイムを決めておくと滞りません。電子申請も利用できます。

健康保険組合に加入している場合も同じ扱いですか。

法定給付の骨格は健康保険法に基づくため同じですが、申請書の様式・提出先・添付書類は組合ごとに異なり、法定給付に上乗せする付加給付を設けている組合もあります。まず自社の加入先の様式と規約を確認してください。

支給決定後と復職準備でやること

初回の支給決定通知が届いたら、支給された日数と期間を記録に残します。通算1年6か月の管理はここから始まります。あわせて、次の3点を復職の1〜2か月前から準備しておくと、復職後の再休職を防げます。

  1. 主治医の意見と産業医の意見を突き合わせる。就業可否だけでなく、就業上の配慮事項(時間外の禁止、通院日の確保など)を文書で受け取ります。
  2. 短時間勤務や職務変更の期間を決める。無期限の配慮は現場の負担を固定化させます。期間と見直し時期を先に決めます。
  3. 復職後の給与と保険料精算のスケジュールを本人へ通知する。立替分の控除がいつから始まるかを知らせないと、復職初月に不信感が生まれます。

制度設計と並行して、自社が使える助成金の当たりを付けておくと予算取りが楽になります。医療費側の相談が来たときの案内先として、高額療養費の窓口対応ガイドを社内マニュアルに入れておくと、経理・総務からの問い合わせも減ります。

3分で使える助成金を診断する本人向けの記入例を確認して社内共有する

出典

最終更新:2026年8月7日

制度情報の確認

要点

制度の事実確認まとめ

過去制度と現在の状態を分けて確認してください。

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公開日: 最終更新日:

本記事は公表資料の確認結果を整理したものです。新制度の決定を示すものではないため、最新の一次情報をご確認ください。