移動支援事業は、障害者総合支援法に基づく地域生活支援事業の必須事業として、全国の市区町村が年度をまたいで通年実施している恒久的な外出支援サービスです。ガイドヘルパーが買い物・地域行事・余暇活動などの外出に付き添い、移動中の安全確保や介助を行います。補助金のような公募締切はなく、いつでも申請できます。ただし「誰が使えるか」「月に何時間まで使えるか」「自己負担がいくらか」は市区町村が独自に決めており、その差は想像以上に大きいのが実態です。本記事では、公表資料が確認できた7自治体の実値を集計し、月あたりの支給時間が12時間から93時間まで最大7.75倍開くこと、自己負担率が1割ではなく3%の自治体があることなど、他のまとめ記事が触れない運用差を数値で示します。そのうえで、対象になる人の考え方・申請の手順・つまずきやすい落とし穴までを整理します。
移動支援事業で先に押さえる5つのポイント
- 公募締切はありません。移動支援事業は地域生活支援事業の必須事業で、市区町村が通年で申請を受け付けています。
- 月あたりの支給時間は自治体で7.75倍ちがいます。公表値の最小は名古屋市の小学生12時間、最大は世田谷区の全身性障害者93時間です。
- 自己負担は「原則1割」が主流ですが例外があります。杉並区は課税世帯でも費用の3%、堺市は一定時間まで無料枠があります。
- 課税世帯の負担上限月額も自治体差があります。枚方市2,000円・大阪市3,000円・名古屋市3,600円(障害児1,800円)。
- 通学・通勤・通院の可否が最大の分かれ目です。通勤はほぼ全自治体で対象外、通学は名古屋市・杉並区は対象、大阪市・枚方市は大学等のみ、世田谷区は月23時間の別枠です。
お住まいの自治体でどの制度が使えるかまとめて知りたい方は、3分の無料診断で対象になりそうな制度を絞り込むところから始めると早いです。

移動支援事業とは?いつまで使える制度なの?
移動支援事業とは、屋外での移動が困難な障がい者(児)にガイドヘルパーを派遣し、社会生活上必要な外出と社会参加のための外出を支援する市区町村の事業です。障害者総合支援法に基づく地域生活支援事業のうち市町村が必ず実施する「必須事業」に位置づけられているため、単年度の補助金のように「今年で終了」することはありません(厚生労働省「地域生活支援事業について」)。
「受付終了」ではなく「通年受付」の制度です
移動支援事業は補助金の公募とは仕組みが違います。市区町村が毎年度予算を組んで実施する福祉サービスなので、申請は年度のいつでも可能です。締切に追われる必要はありませんが、申請から受給者証の交付・事業所との契約までに時間がかかるため、使いたい時期の1〜2か月前には窓口へ相談しておくと安心です。
国・都道府県・市町村で費用を分担する仕組み
地域生活支援事業は国が費用の一部を補助する枠組みで、市町村実施分に対する国の補助率は100分の50以内とされています(厚生労働省「市町村対象事業一覧」)。残りを都道府県と市町村が負担するため、財源規模の違いがそのまま支給量や自己負担の差になって表れます。同じ「移動支援事業」という名前でも中身が自治体ごとに違うのは、この設計に由来します。
同行援護・行動援護とは何が違う?
同行援護と行動援護は国の介護給付(全国一律の基準)、移動支援は市区町村の地域生活支援事業(自治体ごとの基準)です。そのため同行援護・行動援護の支給決定を受けている方は、原則として移動支援の対象外になります。
| 項目 | 移動支援 | 同行援護 | 行動援護 |
|---|---|---|---|
| 主な対象 | 身体・知的・精神障がい者(児)、難病等(自治体が定める) | 視覚障がい者 | 知的・精神障がい者で行動上の著しい困難がある方 |
| 支援の中心 | 社会参加・余暇のための外出全般 | 移動時の情報提供(代読・代筆)と安全確保 | 自傷・他害等を予防回避するための援護 |
| 根拠・実施主体 | 地域生活支援事業(市町村) | 介護給付(国の基準) | 介護給付(国の基準) |
| 基準の決まり方 | 市区町村ごとに独自設定 | 全国一律 | 全国一律 |
視覚障がいのある方は同行援護が先に検討されるのが一般的です。重度訪問介護を利用しながら大学等で学ぶ場合は、重度訪問介護大学修学支援事業(月額0〜37,200円)の対象条件もあわせて確認しておくと、どの制度で申請すべきかの整理が早く進みます。

自治体でどれだけ違う?7市区の支給時間と自己負担を独自集計しました
公表資料を確認できた7自治体を突き合わせたところ、月あたりの支給時間上限は12時間〜93時間(7.75倍)、課税世帯の負担上限月額は2,000円〜3,600円(1.8倍)、自己負担率は3%〜1割の開きがありました。「移動支援は1割負担で月◯時間」という一般論は、そのままでは自分の自治体に当てはまりません。
月あたり支給時間の上限(自治体別・公表値)
| 自治体 | 18歳以上の目安 | 児童・生徒の目安 | 備考 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 世田谷区 | 全身性93時間/視覚・知的・精神・高次脳50時間 | 児童40時間 | 通学に限定した支給は別枠で月23時間 | 世田谷区 移動支援事業(利用者用) |
| 杉並区 | 50時間 | 中高生30時間/小学生15時間 | 通学・通所目的は必要な時間数を別に決定 | 杉並区 移動支援事業 |
| 堺市 | 身体50時間(無料25+1割負担25)/知的・精神40時間(無料18+1割負担22) | 18歳未満20時間(8月は有料枠が20時間) | 無料枠と1割負担枠の二層構造 | 堺市 移動支援事業 |
| 名古屋市 | 36時間(余暇等の外出分) | 中高生24時間/小学生12時間 | 社会生活上必要不可欠な外出は別に必要時間数を決定 | 名古屋市 介護・障害情報提供システム |
| 横浜市 | 標準支給量30時間(通学通所支援と合わせて30時間を超える場合は48時間) | 年齢区分でなく利用目的で判定 | 横浜市 ホームヘルプ・ガイドヘルプサービス | |
| 大阪市 | 一律の上限は公表なし(区保健福祉センターが決定) | 単価と負担上限額のみ公表 | 大阪市における移動支援事業の概要 | |
| 枚方市 | 一律の上限は公表なし | 負担上限額のみ公表 | 枚方市 移動支援事業 | |
集計してわかったもう一つの事実は、7自治体のうち2自治体(大阪市・枚方市)は月あたりの上限時間を公表していないという点です。上限が無いのではなく、区の窓口が個別に決めるため一律の数値を出していません。この場合は「必要な外出の頻度と時間」を具体的に説明できるかどうかが支給量を左右します。
あなたの自治体はどれくらい?支給時間の逆引きシミュレーター
自治体と区分を選ぶと、上の集計表から該当する月あたり支給時間の目安を引き当てます。あわせて自治体別の自己負担の実額も表示します。
ネットで調べた「月32時間まで」という数字を前提に予定を立てていました。うちの自治体でも同じですよね?
そこが一番の落とし穴です。上の集計のとおり、公表値だけでも12時間から93時間まで開きます。他市の数字は参考にならないので、必ず居住地の実施要綱か窓口で確認してください。転居予定がある方は、転居先の支給量を先に調べておくと生活設計を誤りません。
なお外出そのものの費用については、移動支援とは別に交通費を助成する制度を設けている自治体もあります。通所に使う交通費なら障がい者施設の通所交通費助成(月最大2万円)の対象条件、タクシー利用なら障害者タクシー利用助成の対象と申請方法を併せて確認すると、実質的な外出コストを下げられます。

誰が使える?対象になるかの見分け方
共通しているのは「手帳等で障がいが確認できる」「ひとりでの外出が困難」「同行援護・行動援護の対象ではない」の3点で、これらは通常すべて満たす必要があります。一方で手帳の等級要件や対象年齢は自治体ごとに異なり、堺市・杉並区・神戸市は小学生以上を対象としています。
自治体別に見た「使える人」の条件のちがい
| 自治体 | 身体障がい | 知的・精神障がい | 年齢要件 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 大阪市 | 施設入所中の全身性障がい者、重度の全身性障がい者(児)、重度の盲ろう者(児) | 知的障がい者(児)・精神障がい者(児) | 記載なし | 大阪市 |
| 神戸市 | 車いす常用で自走困難な1級または2級 | 療育手帳または精神障害者保健福祉手帳の所持者 | 小学生以上 | 神戸市 |
| 堺市 | 全身性障がい者(視覚障がい者はグループ支援のみ) | 知的・精神障がい者(行動援護・重度訪問介護利用者を除く) | 6歳以上 | 堺市 |
| 杉並区 | 視覚・肢体不自由・知的・精神・高次脳機能障害・難病等で屋外移動に困難がある区民 | 学齢児以上 | 杉並区 | |
| 札幌市 | 重度の全身性障がい、重度の視覚障がい(グループ支援型に限る) | 知的障がい・精神障がいで単独外出が困難な方 | 記載なし | 札幌市 |
視覚障がいの扱いが自治体で大きく分かれる点に注意してください。堺市・札幌市はグループ支援型に限定し、個別の同行は同行援護へ振り分ける運用です。判定に迷う場合は、手帳や受給者証を持参して窓口で相談するのが最短です。手帳の取得段階から検討している方は、障害年金の申請書・診断書の書き方(不支給を防ぐ要点)も同時期に確認しておくと手続きの重複を減らせます。
料金はいくら?原則1割だが自治体で率も上限も違う
利用者負担はサービス費用の原則1割で、生活保護世帯と住民税非課税世帯は0円になるのが一般的です。ただし杉並区は課税世帯でも費用の3%、大阪市は1割ではなく1時間190円の定額、堺市は一定時間まで無料という具合に、算定方法そのものが自治体で異なります。
| 自治体 | 自己負担の考え方 | 課税世帯の負担上限月額 | 非課税・生活保護 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 大阪市 | 30分95円/1時間190円(社会生活上必要不可欠な外出)、大学修学支援は30分113円/1時間227円 | 3,000円 | 0円 | 大阪市 |
| 名古屋市 | サービス費用の1割 | 障害者3,600円/障害児1,800円 | 0円 | 名古屋市 |
| 枚方市 | 原則1割 | 2,000円 | 0円 | 枚方市 |
| 杉並区 | サービス費用の3% | 公表なし | 無料 | 杉並区 |
| 堺市 | 無料枠を超えた分が1割(30分100円) | 公表なし | 1割負担なし | 堺市 |
| 世田谷区 | 課税世帯は1割(介護給付費等と一体で上限管理) | 公表なし | 負担なし | 世田谷区 |
| 札幌市 | 原則1割 | 公表なし | 無料 | 札幌市 |
月の自己負担額を試算する
お住まいの自治体の単価(または1割相当額)と月の利用時間、負担上限月額を入れると、上限を適用した後の実際の負担額と、上限によって軽減される額がわかります。初期値は大阪市の例です。
負担上限月額の設定申請を出さないと1割をそのまま請求されます
負担上限月額は自動では適用されません。支給申請書と一緒に「利用者負担上限月額設定申請書」を提出して初めて有効になります。上のシミュレーターで表示される「軽減される額」が、この申請を忘れた場合に余分に支払う金額です。
医療費や介護費の自己負担が重なっている世帯は、高額療養費制度2026年8月改定後の自己負担限度額や介護保険料の減免(申請で下がる人・自動で下がる人)と合わせて見直すと、世帯全体の負担を効率よく下げられます。
通学・通勤・通院には使える?外出目的の可否は自治体差が最大
通勤や営業活動などの経済活動はほぼ全自治体で対象外、余暇や地域行事への参加は対象というのが共通ルールです。分かれるのは通学・通所と通院で、名古屋市と杉並区は通学を対象とする一方、大阪市と枚方市は大学等の修学支援に限定し、堺市は原則対象外としています。
| 外出の目的 | 一般的な扱い | 自治体差の例 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 買い物・役所手続き・金融機関 | 対象 | ほぼ共通して対象 | 大阪市 |
| 余暇活動(映画・イベント・外食・散歩) | 対象 | 名古屋市は余暇分の時間数を月36時間等で別枠管理 | 名古屋市 |
| 小中高への通学 | 自治体で可否が分かれる | 名古屋市・杉並区は対象/世田谷区は月23時間の別枠/堺市は原則対象外(通学経路習得など一時利用は例外) | 杉並区/世田谷区 |
| 大学等への修学 | 別枠で対象とする自治体が多い | 大阪市は大学修学支援(1時間227円)、枚方市は大学への通学・学内活動を対象 | 枚方市 |
| 通院 | 自治体で扱いが分かれる | 枚方市は移動支援の対象外(居宅介護の通院等介助で対応) | 枚方市 |
| 通勤・営業活動 | 原則対象外 | 大阪市・名古屋市・堺市いずれも経済活動は除外 | 堺市 |
| ギャンブル等 | 対象外 | 社会通念上不適当な外出として共通で除外 | 名古屋市 |
子どもの通学の送迎に使いたいのですが、窓口では「対象外」と言われました。あきらめるしかないでしょうか。
通学は移動支援の本体ではなく別枠になっている自治体があります。世田谷区は通学限定で月23時間、杉並区は通学・通所目的の時間数を別に決定します。「移動支援では対象外」と言われても、通学支援という別メニューの有無を必ず確認してください。名古屋市のように移動支援の枠内で通学を認める自治体もあります。
通勤が対象外である以上、働きながらの移動コストは別の制度で補う必要があります。就労側の支援を探すなら障害者雇用の助成金2026(法定雇用率2.7%引上げ対応)が出発点になります。

いつ申請すればいい?締切がない制度の進め方
移動支援に公募締切はなく、市区町村の障害福祉担当窓口で年間を通じて申請できます。ただし申請から受給者証の交付・事業所との契約までに一定の期間が必要なため、利用を始めたい時期の1〜2か月前に相談を始めるのが現実的です。
- 窓口相談:市区町村の障害福祉担当課(政令市は区の保健福祉センター保健福祉課)で、対象要件と支給量の基準を確認します。
- 支給申請:移動支援費支給申請書と利用者負担上限月額設定申請書を同時に提出します。
- 調査・審査:障がいの状況と外出の必要性について聞き取りが行われ、月あたりの支給量(時間数)が決まります。
- 受給者証の交付:支給決定後に地域生活支援事業受給者証が交付されます。
- 事業所と契約:指定事業所を選んで契約し、ガイドヘルパーの派遣が始まります。
申請前に揃えておくもの
用意しておく書類(チェックはこの端末にだけ保存されます)
申請書の書き方で迷いやすい方は、同じ障害福祉分野の記入例が参考になります。特別障害者手当 申請書の書き方と診断書(記入例付き)では、日常生活の困りごとを審査に伝わる形で書く手順を具体例で解説しています。

なぜ支給量が削られる?差し戻しを招く5つの落とし穴
移動支援は競争的な採択審査ではありませんが、書類の不備や説明不足で支給量が想定より少なく決定されるケースが目立ちます。次の5点は、いずれも申請前に手を打てば防げます。
- 他市の数値を前提に申請してしまう:支給時間の上限は自治体で7.75倍の差があります。他市の解説記事や知人の話を根拠に希望時間を書くと、要件不一致で差し戻されます。
- 負担上限月額の設定申請を出さない:設定申請を出さないと軽減が適用されず、1割をそのまま請求されます。支給申請と同時に提出してください。
- 外出の必要性を抽象的にしか書かない:「外出したい」だけでは支給量の根拠になりません。週に何回・どこへ・なぜ単独では困難かを具体的に書くと時間数が通りやすくなります。
- 対象外の目的で申請する:通勤・営業活動・通年かつ長期の外出は原則対象外です。目的を「社会参加・余暇」として正確に伝えます。
- 他制度との重複に気づかない:同行援護・行動援護・重度訪問介護の支給決定がある場合、移動支援は原則使えません。どの制度が適切かを相談支援専門員と先に整理します。
支給量の交渉で効くのは「記録」です
1か月の外出予定を実際にカレンダーに書き出し、通院・買い物・地域活動それぞれに必要な時間を積み上げて示すと、聞き取りの場で希望時間の根拠を説明しやすくなります。支給量が不足したと感じたときは、実績を記録したうえで変更申請を出すことができます。
他に使える制度は?外出と生活を支える関連の助成
移動支援は外出の「人的支援」を担う制度です。交通費・手当・住まいといった別の負担は、それぞれ専用の制度で軽減できます。該当しそうなものから確認してください。
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